研究実績の概要 |
プラセボ鎮痛効果とは、薬理作用のない偽薬に対して、患者自身が効果があると「思いこむ」ことで、実際に鎮痛効果が得られることを言う。プラセボ鎮痛効果は、患者自身の「偽薬に対する期待感」によって現れることから、その作用機序には高次脳での情報処理が関わっていることは明らかであるが、その詳細な神経生物学的な基盤は未だに明らかになっていない。これまでにパブロフの古典的条件付けを巧妙に利用して、神経因性疼痛モデル動物を対象に、強い鎮痛作用を示しているガバペンチンを連日投与した結果、ガバペンチンの鎮痛効果(US)と投与行為(CS)が条件付けられ、その後プラセボとして投与した生理食塩水に対しても鎮痛効果が現れることを明らかにし、げっ歯類のラットでプラセボ鎮痛モデルを確立することに成功した。また、昨年度は小動物のFDG-PET撮像とSPM解析法を組み合わせた小動物脳機能画像解析法を用いて、前頭前皮質腹内側部(mPFC)や、吻即前帯状回(rACC),腹外側中脳水道周囲灰白質(vlPAG)の神経活動がプラセボ鎮痛効果と関連していることを明らかにした。今年度は前頭前皮質腹内側部(mPFC)の局所破壊によって痛みの閾値は変わらないが、プラセボ鎮痛効果が抑制されること、ミュ-オピオイド受容体のアンタゴニストの腹腔内投与および前頭前皮質腹内側部(mPFC)の局所投与がプラセボ鎮痛効果を抑制することを明らかにした。これらの結果はパブロフの古典的条件付けによるプラセボ鎮痛効果には前頭前皮質腹内側部での内因性のミュ-オピオイド受容体が深く関わっていることを示唆している。
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