ショウジョウバエに匂いAと砂糖水を同時に与えると、両者の報酬関係を学び(報酬性連合学習)、匂いAに近づく行動(アプローチ行動)を示すようになる。一方、学習中の脳内の変化をリアルタイムで調べる為に顕微鏡下にショウジョウバエを固定すると、学習成立の指標となるアプローチ行動を検出出来ず、観察された可塑的変化が真に記憶痕跡か否かを判断することが困難である。そこで当該研究はこれまで、(1)アプローチ行動の代わりに吻伸展反射を用いて、顕微鏡下でも学習成立の判断が可能な報酬性連合学習プロトコルを考案した。また、(2)ショウジョウバエの単離脳に対し、匂い中枢への電気刺激(匂い刺激)と、チャネルロドプシンを発現した甘味感覚ニューロンへの光刺激(甘味刺激)を同時に行うと、報酬性連合学習後の匂い刺激に対して吻伸展ニューロンの応答が上昇したことから、単離脳で報酬記憶が形成されるシステムを考案した。さらに、(3)空腹あるいは満腹個体の単離脳(腹脳・満腹脳)に対し甘味刺激を行うと、空腹脳のみで吻伸展ニューロンが応答し、単離脳に空腹・満腹情報が保存されていることが分かった。空腹や満腹は甘味に対する吻伸展や学習・記憶に影響を与える。そこで、当該研究は、空腹・満腹脳に対し、報酬性連合学習が形成されるか否かを先のシステムで検証した結果、空腹脳でのみ報酬性連合学習が成立し、単離脳が真に報酬記憶を形成し得たことを証明することができた。
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