研究課題/領域番号 |
15K14335
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
坪井 昭夫 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20163868)
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研究分担者 |
高橋 弘雄 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20390685)
吉原 誠一 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (90360669)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 脳神経疾患 / 再生医学 / 成体神経新生 |
研究実績の概要 |
嗅球介在ニューロンは側脳室周囲で生涯を通じて産生されているが、興味深いことに、通常嗅球へ移動する介在ニューロンは、脳梗塞モデルマウスでは移動先を変え、梗塞部位である線条体の神経回路に取り込まれる。しかしながら、梗塞部位に移動した多くの新生ニューロンは十分に発達できずに死んでしまう。そこで本研究では、中大脳動脈閉塞手術により脳梗塞を誘発させ、そのマウスの側脳室や梗塞部位にレンチウイルスを注入し、新生ニューロンに発達を促進する遺伝子を導入する。そして、遺伝子導入による神経回路レベルでの効果や、個体の行動レベルでの効果を検討している。
A)新生ニューロンによる脳梗塞時の神経回路の修復:脳梗塞マウスの側脳室や梗塞部位に、レンチウイルスを用いて遺伝子導入を行う。そして、新生ニューロンの発達を促進する分子(5T4, Npas4など)を過剰発現させることにより、梗塞部位での新生ニューロンの生存や発達を促進し、失われた神経回路の修復を図ろうとしている。
B)新生ニューロンによる梗塞した脳の機能回復:「活性化された新生ニューロンにより、梗塞で損傷した脳の機能がどのように回復するか?」を明らかにするため、上記A)で遺伝子導入を行った脳梗塞モデルマウスを用いて行動実験を行い、脳機能の変化を検討している。①脳梗塞により失われた線条体などの運動機能への効果、②新生ニューロンの本来の役割である嗅覚の情報処理に生じる影響について解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度では、以下の研究を実施した。 A)新生ニューロンによる脳梗塞時の神経回路の修復 A-1)神経活動依存的な発達制御因子:申請者らは、神経活動により発現が誘導される膜蛋白質5T4と転写因子Npas4を、健常マウスの新生ニューロンに過剰発現させることで、樹状突起の発達とシナプス形成が促進されることを見出している(申請者ら、J Neurosci, 32, 2217, 2012;Cell Reports, 8, 843, 2014)。そこで、脳梗塞マウスの側脳室や梗塞層に、Npas4や5T4を搭載したレンチウイルスを注入することにより、新生ニューロンでこれらの遺伝子を発現させて、障害脳に対する神経回路レベルでの効果を検討している。また、Npas4や5T4遺伝子欠損マウスに関して、中大脳動脈閉塞を行い、野生型マウスと比較検討している。これ迄のところ、Npas4遺伝子欠損マウスでは、脳梗塞後の症状が悪化していることが見出されている(申請者ら、未発表データ)。
A-2)血管と神経相互作用による発達制御:嗅球の新生介在ニューロンは血管形成因子を発現しており、そのレセプターは血管内皮にのみ存在している。申請者らは、血管形成因子を嗅球に注入すると、血管新生が促進され、その結果として新生ニューロンもより発達することを見出している(申請者ら、未発表データ)。そこで、レンチウイルスを用いて、新生ニューロンや梗塞部位に血管形成因子を遺伝子導入することにより、血管新生が促進され、更に神経回路の修復が促進されるかどうかを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度では、前年度の研究の続きに加えて、以下の解析を行う予定である。 B)新生ニューロンによる梗塞した脳の機能回復 B-1)脳梗塞モデルマウスにおける運動機能の解析:上記A)で解析を行った脳梗塞モデルマウスにおいて、行動実験により運動機能を定量する。脳梗塞の障害の程度についてneurological severity scoreにより判定する。術後の時間経過を追って、マウスのケージ内での運動量を定量すると共に、障害を受けた側の前脚をどの程度使えるかという点を指標として、corner turnやforelimb use asymmetryテストなどを用いて検討する。
B-2)脳梗塞モデルマウスにおける嗅覚機能の解析:嗅球介在ニューロンの発達が阻害されるNpas4や5T4遺伝子の欠損マウスでは、匂いの識別学習などに障害が見られる(申請者ら、Cell Reports, 8, 843, 2014;J Neurosci, 投稿中)。従って、嗅球介在ニューロンは匂いの情報処理に必須の役割を果たすと考えられる。一方、「脳梗塞により新生ニューロンの移動先が変化した場合、新生ニューロンの本来の役割である匂いの情報処理が、どのような影響を受けるのか?」という点は明らかにされていない。そこで、脳梗塞モデルマウスに関して、匂いの行動実験(food finding、habituation-dishabituation、discrimination learningテスト)を用いて、匂いの検出感度や識別能に対する影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度では、次年度のために消耗品購入や研究補助者謝金などの支出を控えたので、直接経費が90万円程残った。
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次年度使用額の使用計画 |
H28年度では、消耗品購入や研究補助者謝金などの支出が、前年度と同程度に見込まれるので、次年度使用分と今年度分を合わせても、直接経費は残らないと考えている。
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