研究課題/領域番号 |
15K14335
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
坪井 昭夫 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20163868)
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研究分担者 |
高橋 弘雄 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (20390685)
吉原 誠一 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (90360669)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経科学 / 脳・神経 / 脳神経疾患 / 再生医学 / 成体神経新生 / 脳梗塞モデルマウス / ニューロン細胞死 / 神経回路形成 |
研究実績の概要 |
脳血管障害は、本邦の死因の4位となる極めて発生頻度の高い疾患である。しかしながら、虚血により脳組織が一度損傷を受けると失われたニューロンを再生させる効果的な治療法は、未だ確立されていない。脳梗塞により血流が阻害されると、梗塞巣の内部では、酸素や栄養の不足により大多数のニューロンは死滅する。一方、梗塞巣の境界には、血流が低下しながらも細胞死を免れている領域が存在し、ここでのニューロンの細胞死を防ぐことが、臨床医学上の重要課題となっている。
申請者らは本研究において、中大脳動脈閉塞(MCAO: middle cerebral artery occlusion)を用いて脳梗塞モデルマウスを作製し、梗塞2時間後の大脳皮質における梗塞巣との境界領域(penumbra)で発現が変化する遺伝子を、RNAシークエンシング(RNA-Seq)によりスクリーニングした。そして、梗塞側のpenumbraで発現が増加する27個の遺伝子を絞り込んだ。これらの中でも、転写因子Npas4は大脳皮質における興奮性と抑制性のニューロンで顕著に発現誘導され、penumbraに沿うような発現パターンを示した(申請者ら,投稿準備中)。
また最近、申請者らは、健常脳での嗅球介在ニューロンの神経活動依存的なスパイン形成に、Npas4が必須の役割を果たすことを見出した(Cell Reports 8, 843, 2014)。そこで、本研究ではさらに、脳梗塞モデルマウスを用いて、梗塞直後に発現が誘導される転写因子Npas4やその関連因子に着目して解析した。その結果、Npas4やその関連因子は、健常時のみならず障害時においても、ニューロンの発達や生存を促進することで、神経回路の再編に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳血管障害は、本邦の死因の4位となる極めて発生頻度の高い疾患である。しかしながら、虚血により脳組織が一度損傷を受けると失われたニューロンを再生させる効果的な治療法は、未だ確立されていない。脳梗塞により血流が阻害されると、梗塞巣の内部では、酸素や栄養の不足により大多数のニューロンは死滅する。一方、梗塞巣の境界には、血流が低下しながらも細胞死を免れている領域が存在し、ここでのニューロンの細胞死を防ぐことが、臨床医学上の重要課題となっている。
そこで申請者らは、中大脳動脈閉塞(MCAO)手術の2時間後に、大脳皮質での梗塞巣の境界予定領域からRNAを調製して、RNA-Seq解析を行い、梗塞・再灌流の直後に発現が変化する遺伝子を網羅的に探索して、27個の候補遺伝子を見出した。これらの中でも、転写因子Npas4は大脳皮質における興奮性と抑制性のニューロンで顕著に発現誘導され、梗塞巣の境界に沿うような発現パターンを示した。また、Npas4欠損マウスにMCAO手術を施すと、野生型の場合と比較して梗塞巣のサイズが拡大し、予後の運動機能も顕著に悪化した(申請者ら,投稿準備中)。
これらの結果から、Npas4やその下流の遺伝子は、健常時のみならず障害時においても、ニューロンの発達や生存を促進することで神経回路の再編に関与している可能性が示唆されたので、今後のさらなる研究が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、梗塞直後に発現が誘導される転写因子Npas4やその関連因子に着目して、梗塞後のニューロンの生死を左右し、神経回路の修復を制御する分子機構を、以下のように解析して、明らかにする。
1)野生型・Npas4欠損マウスにおける梗塞後のニューロンの生存率や形態の変化について解析する。 2)野生型・Npas4欠損マウスの梗塞後の運動機能について、行動実験により個体レベルで解析する。 3)脳梗塞によるニューロンの細胞死を抑制するようなNpas4の下流遺伝子を同定するために、Npas4欠損マウスにMCAO手術を施した脳サンプルについて、リアルタイムPCRやRNA-Seqを用いてスクリーニングする。 4)野生型・Npas4欠損マウスに関して、脳梗塞後の側脳室や梗塞巣に、レンチウイルスやアデノ随伴ウイルスを用いて、Npas4やその下流遺伝子を過剰発現させて、神経回路の再編を促進することで、その予後が改善されるかどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度においては、今年度に科研費などが採択されるか否かが不明であったので、消耗品購入や研究補助者謝金などの支出を控えたため、直接経費が60万円程残った。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度においては、消耗品購入や研究補助者謝金などの支出が、昨年度以上に見込まれるので、今年度に新規採択された新学術領域研究の分と合わせて、この直接経費を使用する。
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