研究実績の概要 |
脳血管障害は、本邦の死因の4位となる極めて発生頻度の高い疾患である。しかしながら、虚血により脳組織が一度損傷を受けると失われたニューロンを再生させる効果的な治療法は、未だ確立されていない。脳梗塞により血流が阻害されると、梗塞巣の内部では、酸素や栄養の不足により大多数のニューロンは死滅する。一方、梗塞巣の境界には、血流が低下しながらも細胞死を免れている領域が存在し、ここでのニューロンの細胞死を防ぐことが、臨床医学上の重要課題となっている。
申請者らは 本研究において、中大脳動脈閉塞(MCAO: middle cerebral artery occlusion)手術を用いて脳梗塞モデルマウスを作製し、梗塞2時間後の大脳皮質における梗塞巣との境界領域(penumbra)で発現が変化する遺伝子を、RNAシークエンシング(RNA-Seq)によりスクリーニングした。そして、梗塞側のpenumbraで発現が増加する27個の遺伝子をin situハイブリダイゼーションにより、絞り込んだ。これらの中でも、神経活動依存的な転写因子Npas4は大脳皮質における興奮性と抑制性のニューロンで顕著に発現誘導され、penumbraに沿うような発現パターンを示した。
また最近、申請者らは、健常脳での嗅球介在ニューロンの神経活動依存的なスパイン形成に、Npas4が必須の役割を果たすことを見出した(Cell Reports 8, 843, 2014)。そこで、本研究ではさらに、脳梗塞モデルマウスを用いて、梗塞直後に発現が誘導される転写因子Npas4やその関連因子に着目して解析した。その結果、Npas4やその関連因子は、健常時のみならず障害時においても、ニューロンの発達や生存を促進することで、神経回路の再建に関与している可能性が示唆された(申請者ら,投稿準備中)。
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