研究課題/領域番号 |
15K14343
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
吉田 裕孝 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 共同利用推進室, 研究生 (70646570)
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研究分担者 |
木村 哲也 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, アルツハイマー病研究部, 室長 (00415142)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | タウオパチー / タウ病理 / 脳老化 |
研究実績の概要 |
青斑核ノルアドレナリン作動性ニューロンの脱落は脳の老化とともにみられる現象であるが、認知症の主な発症原因であるアルツハイマー病ではこの現象はより顕著である。また、これらのニューロンの投射先である嗅内野、海馬など辺縁系そして大脳皮質は本疾患でその進行とともに損傷をうけ、神経細胞の脱落およびタウ病理が頻発することが知られている。本課題では、青斑核ノルアドレナリン作動性ニューロンの脱落がタウ病理形成伝播および神経細胞死の誘導に与える影響を検証する目的で、タウ病理形成および神経細胞死の様式が解析されているタウオパチー原因遺伝子である変異型タウを発現する遺伝子改変マウスモデルの青斑核ニューロン脱落がタウ病理および神経細胞に与える影響の解析を試みる。 P301S変異タウを発現する認知症モデルマウスPS19(B6;C3-Tg(Prnp-MAPT*P301S)PS19Vle/J)に神経毒であるDSP-4[N-(2-chloroethyl)-N-ethyl-2-bromobenzylamine]を投与し、本モデルが呈する表現型に与える影響を解析した。PS19マウスでは3-6ヶ月齢にシナプス変性およびグリオーシス、6ヶ月齢でタウ線維形成および記憶学習行動に異常、9ヶ月齢で神経細胞死が認められる。生後6週齢のPS19マウスにDSP-4を腹腔内投与し、薬物無処理の対照PS19マウスと比較検討を行った結果、(1)マウスの短寿命化、薬物投与から4-10ヶ月後のマウスの解析から(2)嗅内野および海馬におけるノルアドレナリンおよび線条体における神経細胞内チロシン水酸化酵素量の減少、(3)脳内特定領域におけるタウ病理形成とその進展の違いなどが認められた。これらの結果は、神経毒DSP-4の投与が、脳老化を促進し、タウ病理形成の進展を修飾するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)マウスへの神経毒DSP-4の投与により老化脳内環境の指標であるノルアドレナリン量の減少、チロシン水酸化酵素含有ニューロンの減少が確認されるなど、脳老化の解析に適するモデルが作成できたこと。 (2)脳老化環境の誘導を目的とした本投薬がタウオパチー・モデルマウスにみられる表現型に与える影響(短寿命化およびタウ病理形成分布の変化など)を明らかにしたこと。 上記のように本研究計画において期待される結果がえられてきている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究から、神経毒投与により脳老化を反映するモデル系が作成できた。さらに、この系において認知症モデルマウスの老化が促進され、タウ病理形成とその進展が修飾されることを明らかにした。今後は、このモデル系にみられる老化およびタウ病理形成・神経細胞死のプロセスの解析から、本認知症モデルマウスにみられる表現型の変化が誘導されるメカニズムについて分子レベルで解析を行なう予定である。特に脳内特定領域におけるノルアドレナリン量の減少と神経細胞死・タウの線維化などタウ病理を特徴づける現象の関係の解析により、認知症の最重要危険因子である脳老化がタウ病理形成および神経ネットワークの破綻を誘導する機構について解明したい。実験手技的には、前年度までは、生化学および薬理学的実験を主として行なってきたが、今後は免疫組織学的実験を中心に行なうとともに、本モデル系において上記のプロセスに不可欠な因子が発見された場合、その細胞レベルでの生物学的役割の解析も検討し、認知症発症機構の解明につながる知見を得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(1)購入予定であった抗体(輸入品)が年度末までに納品されなかったこと。 (2)国際学会の参加登録が2016年4月であったことから、研究の進捗を考慮し、国内学会参加に変更したこと。
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次年度使用額の使用計画 |
抗体などの購入予定であった試薬を購入し、これを用いてマウス脳内における病理変化や神経マーカー等の分布・発現の変化についての検討を実験計画に従い行う予定である。
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