研究課題
神経幹細胞の自己複製機構の分子基盤解明は脳の形成や機能の理解に重要である。その解明には神経幹細胞が自己複製する微小環境(ニッチ)の分子的説明が不可欠であるが、未だ不明確な点が多い。本研究では従来の遺伝子発現プロファイリング等がカバーできない新たなアプローチとして合成ポリマー上で神経幹細胞を自己複製させる斬新な手法でその解決にあたることとした。これまでに海外共同研究者と、数百種類の合成ポリマーをスポットしたアレイスライド上に神経幹細胞を培養して未分化マーカー等を蛍光イメージングする自己複製評価系を確立し、神経幹細胞自己複製ニッチをミミックするポリマー(コード名PA518)を得ている。これを踏まえて本年度末までに得た実績は以下の通りである。PA518が神経幹細胞に対してFGF2非添加でも自己複製能を維持させることを確認するため「二次neurosphere形成アッセイ」で評価した。胎生14.5日目のマウス終脳から調製した培養神経幹細胞画分を、従来の培養皿あるいはPA518コート培養皿に播種し24時間FGF2非添加処理後に二次neurosphere形成を行ったところ、後者の形成が有意に高かった。PA518上でFGF2非添加処理した神経幹細胞が多分化能を有するかどうかも重要である。FGF2非添加処理72時間後に一次neurosphereを形成した細胞を、FGF2非添加で5日間培養してTuj1、GFAP、O4に対して免疫染色した。それぞれ陽性細胞が検出されたことからニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトへの多分化能が確認された。PA518結合蛋白質の同定のためには適切な対照ポリマーを得ておくことが必要である。合成ポリマーアレイスライド上に培養神経幹細胞画分を播種しFGF非添加培養後に未分化マーカー発現が低下したポリマーについて、細胞接着性が正常に見られるものを絞り込み、対照ポリマーとしてPA417を同定した。これによりポリマー結合性蛋白質の質量分析の準備が整った。
2: おおむね順調に進展している
数百種類の合成ポリマーをスポットしたアレイスライド上に神経幹細胞を培養して未分化マーカー等を蛍光イメージングする自己複製評価系という斬新な手法で得られたヒットポリマーによる神経幹細胞自己複製効果が確固たるものになり、またこのポリマーに結合する蛋白質の電気泳動と銀染色、さらにはその先の質量分析に円滑につなげるための対照ポリマーの同定も行われたため。
PA518がどのような仕組みで神経幹細胞の自己複製ニッチをミミックするのかを明らかにすることが、神経幹細胞自己複製の解明を通じて脳の形成と機能の理解につながるだけでなく神経変性疾患の治療法開発にも重要な示唆を与える。そこで、今後はまず、PA518ポリマーおよび対照となるポリマーをコートしたディッシュで神経幹細胞を培養した後に細胞を除去し、それぞれのポリマーに結合した蛋白質を回収して電気泳動し銀染色したのちに、PA518ポリマー由来サンプルに特異的なバンドを見出す。それらのバンドを切り出して、質量分析により蛋白質の同定を行うことに注力する。さらに、同定した蛋白質の情報を総合して、ニッチ環境を構築する分子像を明らかにする。次にそれらに対する神経幹細胞側のレセプター分子を蛋白質-蛋白質相互作用データベースの利用などにより特定する。同定したニッチ分子と特定したニッチ受容分子について、強制発現実験やノックダウン実験あるいは阻害実験等によって神経幹細胞自己複製における機能を明らかにする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (4件)
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