研究課題/領域番号 |
15K14346
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田賀 哲也 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (40192629)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経幹細胞 / ニッチ / 自己複製 / シグナル伝達 / 発生・分化 / ポリマー / 神経科学 |
研究実績の概要 |
中枢神経系の発生と再生の理解には神経幹細胞が自己複製する微小環境(ニッチ)の分子的説明が不可欠である。本研究は海外研究協力者と開発した斬新なアプローチ、すなわち多種類の合成ポリマー群をスポットしたアレイスライドと蛍光イメージングによる自己複製評価系で、ニッチ擬態ポリマーを同定することを軸としてその解決にあたった。前年度までに数百種類の合成ポリマーをスポットしたアレイスライド上にマウス神経幹細胞を培養して未分化マーカー等を蛍光イメージングする系で神経幹細胞ニッチ擬態ポリマーPA518を得たので、スケールアップしてPA518上でマウス神経幹細胞を培養して、PA518に結合する分子を回収し、その同定を試みた。その際、対照となるポリマー上でも同様に神経幹細胞を培養して、非特異的に結合する分子を回収することで比較検討が可能となるが、前年度に絞り込んだ対照ポリマーPA531が予想外なことに、スケールアップした実験では細胞接着性を再現できず、その確認と再度の試行に時間を要することとなった。そこで新たにスケールアップレベルでの対照ポリマーを探索することとし、海外研究協力者と挙げた5種類の対照候補ポリマーからPA417を選定することができた。PA518とPA417のスケールアップレベルでのマウス神経幹細胞自己複製支持能力解析ではPA518の高い能力が再現された。 関連して中枢神経系の腫瘍であるグリオーマの幹細胞についても、上述の合成ポリマーアレイスと蛍光イメージング評価系によって、前年度までにニッチ擬態ポリマーPU10を選定しPU10結合蛋白を同定している。平成28年度にはその同定した蛋白である鉄輸送分子トランスフェリンを手掛かりとして、グリオーマ幹細胞でポルフィリン鉄錯体であるヘムの前駆体プロトポルフィリンIXの細胞内レベルが有意に低いことを見出し、中枢神経系の腫瘍幹細胞の特性の一つとして示唆することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに研究代表者は海外研究協力者と開発した斬新なアプローチ、すなわち数百種類の合成ポリマー群をスポットしたアレイスライドと蛍光イメージングによる自己複製評価系で、ニッチ擬態ポリマーPA518を同定することができたが、スケールアップしてPA518上でマウス神経幹細胞を培養してPA518結合分子を回収・同定しようとした際に、対照としてこれまでに同定したポリマーPA531上で対照分子を回収して比較検討しようとしたところ予想外なことにPA531がスケールアップした実験では細胞接着性を再現できず、対照となりえなかった。これにより予定していたPA518結合分子同定実験に遅延を来した。なお、海外研究協力者と共同で再度対照ポリマーの検討を行い、PA417を選定することができた。PA518とPA417のスケールアップレベルでのマウス神経幹細胞自己複製支持能力解析ではPA518の高い能力が再現されたことから、次年度以降の研究展開につなげる見通しができた。また研究代表者の当初予想以上の業務多忙も研究遅延の一因であったが平成29年度には本研究課題の目的達成のための研究展開を実施することが可能な状況になった。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように研究遂行上で予想外の遅延を生じたが、取り組んでいるニッチ擬態ポリマーPA518の神経幹細胞自己複製能維持効果を確認できており、また対照ポリマーの再選定とスケールアップレベルでの対照としての性状も確認できていることから、今後は次のような研究推進方策によって、本研究課題について論文投稿を含む事業の目的達成を図る。 神経幹細胞の自己複製を支持するニッチの分子的説明のために、PA518がどのような分子と結合して、どのようなシグナル経路によって神経幹細胞を自己複製させるかについて明らかにする。すなわち、PA518と対照ポリマーPA417上でマウス神経幹細胞を培養してそれぞれの結合分子を回収する。それらをポリアクリルアミドゲル電気泳動で展開して染色を行い、PA518に特異的なバンドを特定して切り出し、含まれる分子を質量分析によって同定する。 このようにして同定したニッチ分子の情報にもとづいてニッチ受容分子の特定も行う。これらのニッチ分子とニッチ受容分子から、神経幹細胞自己複製を支持するニッチの分子的説明を行うとともに、神経幹細胞の自己複製シグナルの特定を実施する。一連の実験により得られる結果を総合することで、神経幹細胞自己複製ニッチの解明および、神経幹細胞の自己複製の分子基盤確立を図る。 さらに、このようなマウス神経幹細胞を用いて得られた結果の汎用性を検討する。上述の神経幹細胞自己複製ニッチ擬態ポリマーPA518について、マウス以外の動物種の神経幹細胞培養系、あるいは胚性幹細胞などの多能性幹細胞などから神経系に分化させる培養系において、神経幹細胞を自己複製状態にさせる微小環境として作用するかどうかを解析することでニッチポリマーとしての汎用性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
神経幹細胞ニッチ擬態ポリマーPA518をスケールアップしてPA518上でマウス神経幹細胞を培養して結合分子を回収し、その同定を試みた際に、対照となるポリマーを用いて同様に非特異的に結合する分子を回収することで比較検討が可能となるが、前年度に絞り込んだ対照ポリマーPA531が予想外なことに、スケールアップした実験では細胞接着性を再現できず、その確認と再度の試行に時間を要することとなった。そこで新たにスケールアップレベルでの対照ポリマーを探索することとし、海外研究協力者と挙げた5種類の対照候補ポリマーからPA417を選定することができた。これにより本研究課題の目的をより精緻に達成するために次年度に研究経費を使用することが適切な状況になった。また研究代表者の当初予想以上の業務多忙も研究遅延の一因であったが平成29年度には本研究課題の目的達成が見込まれることからも次年度使用が適切な状況になった。
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次年度使用額の使用計画 |
前述のように研究遂行上で予想外の遅延を生じたが、取り組んでいるニッチ擬態ポリマーPA518の神経幹細胞自己複製能維持効果を確認できており、また対照ポリマーの再選定とスケールアップレベルでの対照としての性状も確認できていることから、今後は主として次のような研究を実施するために使用することによって、本研究課題について論文投稿を含む事業の目的達成を図る。 神経幹細胞の自己複製を支持するニッチの分子的説明のために、PA518がどのような分子を結合してどのようなシグナル経路によって神経幹細胞を自己複製させるかについて明らかにする。すなわち、PA518と対照ポリマーPA417上でマウス神経幹細胞を培養してそれぞれの結合分子を回収する。それらをポリアクリルアミドゲル電気泳動で展開して染色を行い、PA518に特異的なバンドを特定して切り出し、含まれる分子を質量分析によって同定する。これら一連の研究に使用される。
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