研究課題
本研究の目的は、マイクログリアがシナプス貪食により睡眠覚醒リズム形成に関与することを示すことである。正常成熟ラット大脳皮質で、マイクログリアがシナプスを貪食しているかどうかを調べたところ、ラットの入眠時刻に当たる午前7時ではマイクログリアの細胞体の拡大と共に、CD68陽性ファゴソーム内にシナプス要素の取り込みが見られた。一方、ラットの覚醒時刻に当たる午後7時ではシナプス貪食は観察できなかった。シナプス関連タンパク質(シナプシン1,PSD95)は入眠時間帯AM7-PM7で少なく、覚醒時間帯PM7-AM7で多かった。また、マイクログリアが認識するEat-meシグナル関連分子であるMFG-E8、GAS6、MerTKや補体の発現はAM7に高く、PM7で低かった。一部のシナプスにはMFG-E8あるいは補体のC3が結合し、マイクログリアに貪賞された、あるいはされようとしているところが共焦点顕微鏡により、AM7で観察された。同時刻でEat-meシグナル関連分子は、生化学的に調製したシナプトソーム分画に多く存在していた。培養実験では、マイクログリアはグルタミン酸によって貪食能が亢進し、ノルアドレナリンによってグルタミン酸の促進効果がキャンセルされることを見いだした。HPLCによって、大脳皮質ノルアドレナリン含量を調べたところ、入眠時は、覚醒時の約2分の1に減少していることが明らかになった。脳内モノアミン枯渇剤レセルピンを投与すると、マイクログリアの細胞体は拡大し、ラットは行動量を減じた。逆に、合成グルココルチコイドのデキサメサゾンを投与すると、マイクログリアの細胞体は縮小しシナプスが増え、行動量は増加した。これらの結果は、ルアドレナリンの日内変動に応じて、マイクログリアがシナプスを貪食し、入眠覚醒サイクルに関与していることを示している。
2: おおむね順調に進展している
概ね順調に研究は進捗し、日本生理学会、日本病態生理学会で一部のデータを発表し、今後、日本神経化学会、日本神経科学会で発表の予定である。7月頃を目途に論文にまとめ投稿する見込みである。
入眠時のマイクログリアのシナプス貪食の生理的意義を明らかにするために、次の様な実験を行う。1)デキサメサゾン投与:入眠前のデキサメサゾン投与はマイクログリアの貪食能を強力に抑制し、細胞形態を小さくする。この形態は覚醒時のマイクログリアに似る。このときの睡眠脳波を計測し、睡眠ステージのいずれが影響を受けるのか、また、学習に効果の固定化に影響はないのか等を検討する。2)レセルピンの影響の検討:レセルピンは、脳内アミンを枯渇させる。特にノルアドレナリンは大幅に減少した。その結果、活性化マイクログリアが多数現れ、行動量が減少した。この際の脳波計測により、睡眠の質の変化を探る。
実験に使用する動物の繁殖・調達が間に合わなかったため、一部実験の実施が翌年度にずれこんだため。
5月中に、ブロッティング、形態観察、PCR実験など、前エンド3月に予定した実験を終了し、繰り越した予算の執行する。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 謝辞記載あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件)
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