研究課題/領域番号 |
15K14355
|
研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
飯島 崇利 東海大学, 創造科学技術研究機構, 准教授 (90383702)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | RNA制御 / 精神疾患 / 自閉症 |
研究実績の概要 |
近年RNAスプライシングやRNA編集などのRNA情報発現系による生命情報の多様化の破綻が脳・神経系における複数の疾患の発症や病態に関連していることが明らかになりつつある。神経系においてシナプス分化や可塑性を制御するRNA情報発現系について研究を行ってきた採択者のバックグランドを十二分に活かし、本研究課題では自閉症スペクトラム障害 (ASD)を対象に、RNA情報発現系の制御異常と精神発達疾患の発症や病態との因果関係を明らかにすることを目指している。 27年度は、採択者が確立してきた自閉症リスクファクターと知られている化合物の培養神経細胞への直接投与によるin vitro自閉症モデル (Y.Iijima et al., Sci. Rep. 2016, in press) を用いて、エキソンレベルでの発現変化の網羅的解析を行った。その結果、少なくとも62個の遺伝子が有意に顕著な減少を示しており、興味深いことに、これらのコードする分子群は機能的にいくつかに大きく分類できることが判明した。これらはエキソンレベルではなく全て遺伝子単位の変動であり、多くはないがスプライシング変化を伴うと思われる分子もいくつかリストされた。当初期待されたatypicalバリアントについては今回ほとんど同定できなかった。しかしながら、我々の用いたアレイ解析では30bp以下のマイクロエキソンのようなものは検出できないという欠点があり、我々のin vitro自閉症モデルでトランスクリプトームレベルの微細な変化が起きているか否かは引き続き予定している学内サービスを利用したRNA-seq.解析の結果を待たねばならない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全体的にin vitro自閉症モデルを用いたエキソンマイクロアレイの解析結果は予想外の結果もあったが、それ以上に自閉症スペクトラム障害の理解の上で有益な情報をもたらしており、今回の解析は成功といえる。我々はこの情報をもとにすでに次のステップへ進み、in vivoすなわちモデル動物のレベルでこの情報と自閉症発症と病態の分子メカニズムについて検討に入っている。自閉症との関係は定かでないものの、上記の網羅的スクリーニングのなかで非常に興味深い分子もいくつか同定されており、このような分子に関しては基本的な生理的役割について検討するため、現在該当分子のノックアウトマウスの作成等を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
in vitro系自閉症モデル (Iijima et al., Sci. Rep. 2016) を用いて自閉症リスクファクター暴露によるRNAレベルでの発現調節異常を網羅的に同定してきた情報に基づき、採択者らは自閉症発症や病態に対するいくつかの仮説をたてた。これを元に、自閉症スペクトラム障害 (ASD) の発症や病態に関わる分子やシグナルをさらに詳しく同定し、さらにin vivoレベルの解析によって自らの仮説を検証していく。 さらに、我々は現在自閉症の候補因子となっているRNA結合タンパク質khdrbs1-3の解析を行っており、本課題とは別のプロジェクトとして、ノックアウトマウスを用いて上記と同様にエキソンレベルでトランスクリプトームの比較解析をおこなったところ、精神疾患を非常に関連が強い複数の分子で選択的スプライシングの劇的変化がノックアウトマウスにおいて確認された。今後は本課題の中で、これらのマウスを用いて生理・行動レベルで精神疾患との繋がりについて検討していきたい。 自閉症モデルにおいてスプライシング異常によるatypicalな遺伝子産物の存在を仮定しているが、今回の解析ではatypicalバリアントについてはほとんど同定できなかった。しかしながら、我々の用いたアレイ解析では30bp以下のマイクロエキソンのようなものは検出できないという欠点があり、我々のin vitro自閉症モデルでトランスクリプトームレベルの微細な変化が起きているか否かについては、引き続き予定している学内サービスを利用したRNA-seq.解析などで検証していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主な理由としては、本課題申請時に27年度購入予定のあった薬用冷蔵庫(60万円程度)の購入を取りやめたことがあり、この剰余額を次年度に繰り越して別用途で使用することにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
自閉症動物モデルを用いたin vivoでの解析が多くなることと、現在作成中の遺伝子改変マウスも解析には入ると思われるので、動物の購入や飼育管理費、またin vivo解析を充実させる為の器具類の購入にあてる。
|