研究実績の概要 |
近年RNAスプライシングやRNA編集などのRNA情報発現系による生命情報の多様化の破綻が脳・神経系における複数の疾患の発症や病態に関連していることが明らかになりつつある。神経系においてシナプス分化や可塑性を制御するRNA情報発現系について研究を行ってきた採択者のバックグランドを十二分に活かし、本研究課題では自閉症スペクトラム障害 (ASD)を対象に、RNA情報発現系の制御異常と精神発達疾患の発症や病態との因果関係を明らかにすることを目指している。 これまで採択者が確立してきた自閉症リスクファクターと知られている化合物の培養神経細胞への直接投与によるin vitro自閉症モデル (Y.Iijima et al., Sci. Rep. 2016) を用いて、エキソンレベルでの発現変化の網羅的解析を行った。これまでの自閉症リスクファクターも多数この中にリストされていたが、さらに興味深いことに、特に興味深く顕著であったのは特定の抑制性ニューロンサブタイプの遺伝子プロファイリングの変化であった。この情報をもとに、in vivoすなわちモデル動物のレベルで解析を行ったところ、尾側基底核 (Caudal Ganglionic Eminence; CGE)から発生する抑制性神経細胞サブタイプのVIP, Reln陽性細胞がより強い影響を受けることがわかった(現在投稿準備中)。VIP陽性の抑制性神経細胞は皮質錐体細胞を脱抑制させる2つの投射経路をとり、作業記憶を制御していることが知られる (Kamigaki et al., 2016)。重要なことに、VIP陽性細胞は全神経細胞の僅か1%程度にもかかわらず、大脳皮質回路の同期リズム形成に非常に重要であることが最近報告され、VIP細胞の機能障害が精神疾患・発達障害と関係することが強く示唆され始めている (Batista-Brito et al., Neuron, 2017)。このようなVPA暴露に強く影響される特定の抑制性ニューロンサブタイプの発生と機能に的を絞り、自閉症発症と病態の分子メカニズムについて検討に入っている。
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