研究課題/領域番号 |
15K14356
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
古市 貞一 東京理科大学, 理工学部, 教授 (50219094)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子神経科学 / 自閉症スペクトラム障害 / 社会行動 |
研究実績の概要 |
自閉症スペクトラム障害(ASD)は社会行動の障害を特徴とする脳の発達障害で、ゲノム中の遺伝子の約1%が発症リスクに関連すると示唆されている遺伝要因が強い多因子疾患である。高発症率と有効な治療法が無いため、病因究明が待たれている。しかし、遺伝的多様性をもつヒトの多因子疾患を明らかにすることは極めて困難である。本研究では、遺伝的に均一な近交系マウスで低社会性と高社会性を示す2系統に着目し(それぞれBTBRとC57BL/6)、社会性の異なる形質および集団生活などの生育環境による部分的な社会性回復における比較エクソーム解析や比較トランスクリプトーム解析等を行う。また、ASDモデルマウスを用いて、同様の比較解析や行動解析を実施する。これによって、社会行動障害と社会性回復の分子基盤の解明をめざす。27年度は、社会行動テストの実験系の整備とトランスクリプトームの予備解析を実施した。また、ASD様の社会行動障害を示すモデルマウスとしてCAPS2 KOマウスを用いて、マイクロアレイによるトランスクリプトーム解析を実施し、現在データ解析中である。また、ストレスに対する行動と代謝生理の変化に関して解析を行い、慢性ストレス負荷時にストレスホルモンとインスリンの分泌に異常をもつことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マウス系統の海外からの輸送手続きと実験に利用できるまで個体数を繁殖までに時間を要した。従って、これら飼育マウスを使用した社会行動テストの確立、引き続くトランスクリプトーム解析まで全体的な計画の遅れがあった。しかし、それ以外は比較的順調に準備が進められ、モデルマウスを用いた関連研究が進むなど、遅れの中でも一定の達成度は確保できた。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度は全体的な遅れを取り戻し、社会性の欠損と回復のマウス脳内における全エクソーム解析に集中して、ASD関連遺伝子の体系化(コアの発現ネットワークの予測)とキー候補遺伝子の同定をめざす。また、H27年度は不安やストレス関連の研究を行ったが、これらの疾患に関連する遺伝子やタンパク質も含めて、低社会性と高社会性を示すマウス脳内における発現分布の変化を免疫組織化学や定量的RT-PCR等で解析して、社会性関連脳領域を明らかにする。また、シナプス回路異常や社会性の異常が明らかになっているモデルマウス(CAPS2 KOとdex3マウスなど)を用いて、これらの発現データとの共通性と相違性を明らかにする。最終的に、ヒトの既知のASD関連遺伝子およびネットワークの理解に還元するとともに、ASDの血中診断マーカーや治療標的分子の候補がないかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウス系統の導入と繁殖、および社会行動テスト等の確立に時間を要したため、次年度でRNAseq解析等を委託するための経費を必要とするため、H27年度予算の一部を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の繰越金の主な使途目的は、マウス飼育とRNAseq解析、およびそれらのデータ解析にかかる経費への支出である。H28年度予算では、モデルマウスにも解析を適用しさらにデータを追加して、全体の検証実験およびASD関連遺伝子ネットワーク解析に要する経費に使用する。
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