近年、研究代表者らはマウスにおいてES細胞から機能的な始原生殖細胞(primordial germ cell; 以下、PGCLC)を誘導することに成功している。PGCLCは精巣もしくは卵巣に移植する事により、正常な産仔能を有する精子および卵子へと分化させることが可能である。このように、PGCLCの分化誘導系は基礎生物学のみならず、発生工学、ヒトの不妊症の解明など、幅広い応用が期待されるが、その詳細な試験管内分化機構はいまだ不明である。特に、この分化誘導系ではPGCLCの分化誘導効率は約10-20%程度であり、その他の細胞はテラトーマ形成能を有する細胞である。本研究計画ではPGCLCの分化誘導系を詳細に検討することにより、ES細胞からPGCLCの分化機構の解明を試みるとともに、その分化誘導効率の大幅な上昇を目指すことを目的とする。 平成28年度は、以下の点について解析を行った。まず、PGCLCの誘導効率はES細胞の遺伝的背景が影響しており、F1由来のES細胞を用いることでより安定的にPGCLCを誘導することが可能になった。また、誘導の際に観察されるPGCLC以外の細胞はPGCLCと比較してその細胞周期が遅いことが明らかとなった。現在、昨年度より引き続き、PGCLCの前駆細胞であるepiblast like cell (EpiLC)のheterogeneityに関する実験を行っている。具体的には、細胞表面マーカーの発現が異なるEpiLCをFACSにより分取し、それぞれの細胞集団のPGCLCへの分化能を評価し、さらに、配偶子への分化能を移植実験により検討中である。
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