哺乳類の胎児は母親の胎内で育ち誕生する。この母体と胎児の関係は、非常に寛容で、同種間であれば代理母でも妊娠が成立する。すなわち、MHCの適合に関係なく胎児は胎内で育ち誕生できる。しかし、異種間になると、一部を除いてほとんどの種間で子供が誕生することはない。これは、免疫不全マウスにラット胚を移植しても発生しないことから、免疫以外のメカニズムも関わっていることが考えられた。一方、これまでに胎盤に分化しないラットのES細胞をマウス胚盤胞に打込み、マウスの母体に移植して異種キメラを誕生させている。このことは、胎盤が母体と同種であれば、異種の細胞を持つ胎児でも誕生できることを示している。 本研究では、この成果をヒントに胎児と母体を繋ぐ胎盤に焦点を当てテトラプロイドのマウス胚にラットのES細胞をインジェクションして胎盤置換を行った胚を偽妊娠マウスに移植してマウスがラットを産むことができるかどうかを検討した。コントロールとして偽妊娠マウスにラット胚を移植した場合は、胎生7.5日までに胚は退行したが、胎盤置換ラット胚は胎生10.5日まで胎児が生存していることが確かめられた。しかし、それ以降に発生は進まなかった。 以上の事から、着床後の胚発生に種特異的な母子相互認識が存在することが示唆された。しかしながら、胎生10.5日以降胎児の発生は進まなかったことから、種特異性は、着床期だけではなく、胎盤と胎児の相互作用にも関わっていることが示された。
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