哺乳類における雄性化のプロセスは、Y染色体と男性ホルモン作用により制御される。近年、雄性化に対する内分泌制御についてはアンドロゲン受容体による転写調節機構や生体内高次機能の詳細が明らかとなっている。一方、Y染色体遺伝子群に関してはSRYを除き、その分子機能および生理機能の殆どが不明である。そこで本研究ではY染色体の非相同組み換え領域に座位するDBYおよび多コピー遺伝子RBMYの組織特異的遺伝子改変マウスを開発することにより、技術的に困難であったY染色体の生体内機能の解析系を確立を目指す。 前年度に取得した挿入型ベクターを用いたDBY遺伝子座へのloxP配列挿入ES細胞を用い、アグリゲーション法によりキメラマウスを作出した後、定法によりfloxマウスの作出に成功した。また同時に、エレクトロポレーション法によるマウス受精卵への核酸導入技術とCRISPR/Cas9法によるゲノム編集技術を組み合わせることでDBY floxマウスを取得した。これらflox系統と生殖細胞特異的Cre発現マウス、神経細胞特異的Creマウスとの交配により、組織特異的DBY遺伝子欠損マウスの作出に成功した。 一方、Y染色体上に30コピー以上存在するRBMY遺伝子については、人工miRNA(amiRNA)発現によるノックダウンマウスの作出を試み、培養細胞にてノックダウン効率の高かった3種のamiRNAをタンデムにつなげた発現ベクターを構築し、定法によりトランスジェニックマウスの作出に成功した。 これらの研究により、条件付きY染色体遺伝子欠損マウスとY染色体多コピー遺伝子ノックダウンマウスの作出法が確立し、Y染色体遺伝子群の高次生体機能の解析が可能となった。
|