研究課題/領域番号 |
15K14372
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
田中 眞人 東京電機大学, 理工学部, 教授 (30339072)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | モノクローナル抗体 / エピトープ解析 / エピトープ配列のデータベース化 / 抗体分子の設計 / 組換え抗体 / 抗体工学 |
研究実績の概要 |
本研究ではまず始めに、抗ヒトDNAトポイソメラーゼII抗体(4E12b抗体)の真の抗原性について詳細な解析を行った。これまでの研究成果をもとに、エピトープがヒトDNAトポイソメラーゼII配列中の特定の6アミノ酸残基のペプチドに存在することを明らかにした。さらにこのペプチドに隣接するアミノ酸残基の影響を調べるためにN末端側、C末端側のアミノ酸残基を性質の異なる複数の組み合わせで抗原性に与える影響を調べた。また、4E12b抗体L鎖、H鎖cDNAクローニングを行い、動物細胞での発現を実施した。得られた組換え抗体は、4E12b抗体と同じ特異性を示した。4E12b抗体の飛行時間型質量分析器によるトリプシン分解ペプチドマッピング解析の結果はこのcDNAから予想されるL鎖、H鎖のアミノ酸配列と一致した。また、抗オワンクラゲ蛍光タンパク質モノクローナル抗体のエピトープ解析も順調に推移し、ほぼペプチドレベルでの抗原決定基解析に成功した。 ここで明らかとなった4E12b抗体に強い抗原性を示す特徴的な配列(配列Xとする)をクエリとして網羅的にBLAST検索を行うと、ヒト、マウス、シロイヌナズナなど他の種の生物種において配列Xを含むタンパク質が同定された。そこでこれら生物種由来の細胞抽出物に対し4E12b抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った結果、データベースから得られるこれらタンパク質の推定分子量に相当する複数のタンパク質が4E12b抗体に対し抗原性を示した。 4E12b抗体L鎖、H鎖cDNAから推定されたアミノ酸配列と既知のデータベース上の相同配列検索を行ったところ、L鎖、H鎖のそれぞれが極めて類似したIgG分子が同定された。本研究の究極の目的はエピトープによるデータベース構築であるが、タンパク質配列データベース、立体構造データベースとの関連性が現れてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度に予定した研究計画には以下の項目が含まれていた。(1)モノクローナル抗体(4E12b)の真のエピトープの決定。(2)エピトープ短鎖ペプチドの隣接のアミノ酸残基の影響。(3)4E12b抗体の分子クローニング。(4)COS-7 細胞での一過的発現による組換え抗体の調製。(5)4E12抗体の変異体の作製。(6)4E12b抗体が他の生物種の予想タンパク質の抗体として機能することの例示。これらの計画は順調に進展し、4E12b抗体に関しては、組換え抗体が同じエピトープ結合性を示すことまで示すことができ、成功裡に進んでいると言える。ただ、エピトープ・短鎖ペプチドの隣接アミノ酸の影響については、大きな負の効果を与える例があり、エピトープ配列への限定条件となるかどうかで今後の問題となっている。予想外に大きな進展を見せたのは、4E12b抗体の分子クローニングによって得た4E12b抗体L鎖、H鎖のcDNAから予想されるアミノ酸配列の相同配列検索の結果である。L鎖、H鎖とも極めて類似した例が見つかり、それらの抗体のエピトープと立体構造の情報は本研究計画の遂行と今後期待される抗体の人工設計にあたり重要なヒントを与えた。 また、抗オワンクラゲ緑色蛍光タンパク質モノクローナル抗体について同様な解析も並行して進めた結果、短鎖エピトープに収束できることが明らかとなった。4E12b抗体と同様の方針で進行している。 一部にマイナス要因があるものの、計画全体および実験のペースとしては極めて順調に推移している。詳細データの公開とデータベース構築の呼びかけに関しては、特許取得の可能性があるため、先送りになった点を鑑み、「おおむね順調」という自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度計画の中では、中心には据えていなかった4E12b抗体の相同配列解析の結果が今後の研究の推進方策に大きな影響を与えると思われる。当初は、4E12b抗体の変異体を作製するために、この抗体の超可変部位の確認を目的として相同配列検索を行った。驚くべきことに、L鎖に関しては極めて類似した抗体が複数見いだされた。しかも、これらの抗体は全く異なる抗原認識の抗体であった。これらの抗体については、当然のことながら、H鎖には全く相同性が見られなかった。一方、H鎖の相同配列検索では、可変領域に数残基からなるペプチドの挿入変異という結果が得られた。これらの抗体ではH鎖が特異性を支配しているなど、いくつかの解釈が可能であるが、いずれにせよ、今回の結果は抗体分子を設計して新たな抗原決定基を有する組換え抗体をデザインしようとする立場からは極めて魅力的な枠組みを入手したこととなる。 本研究の本来の目的であるエピトープのデータベース構築と上記の抗体デザインの研究とは一見かけ離れているかのように捉えられるが、実は密接な関係性を有している。抗体の多様性を担保している抗体生合成の仕組みはそれほど複雑なわけではなく、限られた数の遺伝子断片をパッチワークのように繋ぎ合わせているに過ぎないからである。期間内に終了できるかどうかの危惧は残るが、ここでは最初の目的であるエピトープのデータベース構築と人工抗体のデザインの研究とを敢えて並列して推進する方が成果が期待できると判断した。 平成28年度は、ほとんどの研究活動をデータベース構築へとシフトする予定であったが、結果として多くの実験を継続して行う必要性が出てきた。
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次年度使用額が生じた理由 |
残高306円では、研究に必要とする物品を購入することができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越して合算し、必要な物品等の購入費に充てる。
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