研究課題
日本は2013年に65歳以上の高齢者が総人口の25%を超える超高齢化社会に突入し、近年、加齢や運動不足による身体機能低下や運動器疾患、さらにはその社会的影響としてロコモやフレイルが定義されているが、これら老人病は年をとって筋が萎縮したり、筋力が低下したりした影響によるものであることは明白だが、その過程には不明な点が多く、動物モデルでの検証が待たれる。本研究ではゼブラフィッシュをモデル動物として、老化過程における筋の評価系を立て、将来の創薬や治療の基盤を構築することを目指している。Tol2とランスポゾンを用いたトランスジェニックゼブラフィッシュ作製系を用いて、筋で強力かつ特異的に機能するアルファアクチンプロモーターでさまざまな蛍光タンパク質を発現ドライブするトランスジェニックゼブラフィッシュ系統の作製を進めた。具体的にはTol2のライトアームとレフトアームの間にゼブラフィッシュのアルファアクチンのプロモーター領域をサブクローニングし、その下流に蛍光タンパク質をコードする遺伝子を接続したプラスミドを作製した。これをTol2トランスポザーゼのRNAと一緒にゼブラフィッシュ受精卵にインジェクションして、ゼブラフィッシュゲノムへのインテグレーションを図った。実際にインジェクションしたF0個体で筋に蛍光タンパク質の発現が観察されたことから、トランスジェニックゼブラフィッシュ系統が作製できているだろうと期待されたが、それらF0個体を成魚になるまで育てて、野生型個体と交配してF1世代を得ると、F1個体で蛍光タンパク質が筋で高レベルで発現するのが観察されたことから、本研究に必要な筋のライブイメージングに使用可能なトランスジェニックゼブラフィッシュ系統の作製に成功したと言える。さらに複数の系統を交配させることで、筋の異なる細胞内領域を同一個体でマルチカラーでラベルする個体の作製も可能になった。
2: おおむね順調に進展している
筋を可視化して老化を評価することを目指し、筋でさまざまな蛍光タンパク質を発現するトランスジェニックゼブラフィッシュの作製を進めた。この目的にはメダカ由来のトランポゾンであるTol2が有用で、Tol2プラスミドの左右のTol2アーム内に筋で強力かつ特異的に機能するアルファアクチンプロモーターをサブクローニングした。さらにその下流に、特異的な細胞内局在を示す蛍光タンパク質 GFP, RFP, YFP などのコードする遺伝子を配置し、その下流のポリAシグナルとしてはSV40 late polyAを採用した。これらのTol2プラスミドDNAをTol2トランスポザーゼのRNAと一緒にゼブラフィッシュ受精卵にインジェクションすることで、ゼブラフィッシュゲノムへのTol2プラスミドのインテグレーションを図った。実際にインジェクションして得られたF0の個体を蛍光観察すると、筋で蛍光タンパク質の発現が見られたことから、トランスジェニックゼブラフィッシュ系統が作製できているだろうと期待された。それらF0稚魚を成魚になるまで育てて、野生型系統の成魚と交配してF1稚魚を得ると、F1個体でも蛍光タンパク質が筋で高レベルに発現するのが観察されたことから、筋を可視化するトランスジェニックゼブラフィッシュ系統の作製に成功したと言える。細胞内局在の異なるRFP, YFP等についても、それぞれインジェクションから並行して行い、最終的に全てでトランスジェニックゼブラフィッシュ系統を確立するこに成功した。このことから、本研究は順調に進展していると考えられる。これらのトランスジェニックゼブラフィッシュ同士を交配すると、ダブルトランスジェニックゼブラフィッシュやトリプルトランスジェニックゼブラフィッシュも得られるはずで、これら個体を作製すれば、筋の異なる領域を同一個体でマルチカラーに可視化することが可能になるだろう。
ここまでで有用なトランスジェニックゼブラフィッシュ系統の作製に成功した。これらのトランスジェニックゼブラフィッシュ同士を交配して次世代個体を得れば、2つのトランスジーンをもつダブルトランスジェニックゼブラフィッシュを作製することができ、さらに別系統のトランスジェニックゼブラフィッシュと交配すれば、トリプルトランスジェニックゼブラフィッシュを作製できる。これにより、筋の異なる領域を同時にマルチカラーで可視化するトランスジェニックゼブラフィッシュを作製する。ゼブラフィッシュでは2つの遺伝子の欠損によって、黒色、黄色、虹色の全ての色素を欠損する、キャスパーと呼ばれる透明なゼブラフィッシュ個体ができることが、知られている。これら2つの遺伝子の変異をトリプルトランスジェニックゼブラフィッシュにもたせてキャスパー化することができれば、稚魚期だけでなく成魚でも透明なゼブラフィッシュを作成することが可能になる。また、老化が早く起きるゼブラフィッシュ系統の作製を進める。CRISPR/Cas9法で遺伝子を破壊することが可能なので、これを採用して、具体的にはターゲットとする遺伝子中にPAM配列として使えるDNA配列を見出し、隣接するDNA領域をCRISPRのターゲット配列として決めCRISPRコンストラクトをデザインする。CRISPR RNAはMega short scriptというキットをプロトコル通りに使うことでin vitroで合成する。Cas9も同様にin vitroで合成し、これらRNAを混ぜて、ゼブラフィッシュ受精卵にインジェクションして、ターゲットの遺伝子を破壊することを計画している。
本年度の研究計画は予定通り進んでいるが、実験に使用する目的で準備しているゼブラフィッシュの成長がやや遅いため。
現在、ゼブラフィッシュを多めに飼育しており、成長の遅れを挽回できる予定なので、その維持や実験に執行する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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