研究課題/領域番号 |
15K14377
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷川 千津 東京大学, 医科学研究所, 助教 (30422421)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | p53 / 鉄代謝 |
研究実績の概要 |
肝癌を始めとした悪性腫瘍組織においては鉄の異常蓄積が高頻度に認められ、瀉血や鉄制限による治療・予防が一定の成果をあげている。しかしながら癌組織で鉄が蓄積するメカニズムの全貌は明らかになっていなかった。我々は新規p53標的遺伝子として鉄硫黄クラスター形成に関与するISCU(iron-sulfur cluster assembly enzyme)を同定した。本研究では、p53-ISCU経路が鉄の恒常性維持にどの様な役割を果たすかについて、in vitroおよびin vivoにて検討を進め、癌組織における鉄代謝異常の原因を明らかとし、発癌予防に貢献することを目的とする。 本年度は、細胞内の鉄濃度調節を行う鉄硫黄タンパク質であるIRP1(iron regulatory protein 1、別名ACO1)の下流経路について検討した。IRP1は鉄の調節に関わるTfRおよびFerritin mRNA上の特定配列IRE(iron responsive element)に結合し、mRNA安定化や翻訳阻害などを引き起こすことで細胞内鉄濃度を制御するが、このIRP1-mRNA結合は、IRP1の鉄硫黄クラスターとの結合状態に依存することが知られている。ISCUは鉄濃度依存的に鉄硫黄クラスターを生成し鉄硫黄タンパク質群に受け渡す機能を有するため、IRP1の活性制御にも関与する。そこでp53-ISCU経路がIRP1-mRNAの結合やTfR、Ferritinの発現に影響を与えるか、定量的PCR、Western blotting、RNA EMSAにて検討を行った。 さらに、p53ノックアウトマウスに高鉄食を負荷した際に、血清鉄レベルが野生型と比較し顕著に上昇することがわかったことから、p53が血清鉄レベルの恒常性に重要な働きを持つことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた計画のほとんどに取りかかることができ、また、成果が順調に得られた。
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今後の研究の推進方策 |
癌組織におけるISCU変異について、機能解析を行う。またepigeneticな遺伝子発現抑制機構の有無を5-Aza-2’-deoxycytidine処理、TSA処理にて検討する。また発現上昇が確認できれば、実際にプロモーターのメチル化、ヒストンの脱アセチル化があるかどうかを検討する。 また、鉄代謝におけるp53の役割を解明するため、ISCU以外に鉄制御に関連するp53下流遺伝子が存在するか検討する。RNAレベルで誘導が確認された場合、タンパク質レベルの検討、さらにはp53結合配列の検索を進め、p53の直接の下流遺伝子かどうかを検討する。 さらに、p53ノックアウトマウスにおいて、高鉄食条件下で、肝癌、腎癌の発症が誘導されるかを検討する。
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備考 |
東京大学医科学研究所シークエンス技術開発分野ホームページ http://square.umin.ac.jp/matsudalab/index.html
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