肝癌を始めとした悪性腫瘍組織においては鉄の異常蓄積が高頻度に認められ、瀉血や鉄制限による治療・予防が一定の成果をあげている。しかしながら癌組織で鉄が蓄積するメカニズムの全貌は明らかになっていなかった。我々は新規p53標的遺伝子として鉄硫黄クラスター形成に関与するISCU(iron-sulfur cluster assembly enzyme)を同定した。本研究では、p53-ISCU経路が鉄の恒常性維持にどの様な役割を果たすかについて、in vitroおよびin vivoにて検討を進め、癌組織における鉄代謝異常の原因を明らかとし、発癌予防に貢献することを目的とする。 昨年度までに、p53-ISCU経路が鉄の恒常性をどのように維持しているか、そのメカニズムを明らかとした。ISCUは、細胞内の鉄濃度調節を行う鉄硫黄タンパク質であるIRP1(iron regulatory protein 1、別名ACO1)に鉄硫黄クラスターを受け渡すことでその活性制御に関与していることが知られているが、p53-ISCU経路はIRP1を介してその下流であるTfRやFerritinの発現に影響を与えていることが示された。 本年度は、鉄代謝におけるp53の役割を解明するため、ISCU以外に鉄制御に関連するp53下流遺伝子が存在するか検討した。はじめに、Gene ontology解析により鉄代謝の機能を有する遺伝子群を抽出した。次に、これら遺伝子群がp53により発現誘導を受けるかどうかを、これまでに研究室で行われたmicroarray、RNA sequenceなどのデータを元に検証した。その結果現在までに、ISCUに加え、複数の鉄代謝関連p53標的遺伝子が抽出された。
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