研究課題/領域番号 |
15K14386
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 えみ子 国立遺伝学研究所, 構造遺伝学研究センター, 准教授 (20173891)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | がん微小環境 / 細胞競合 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
本研究は、上皮組織における腫瘍形成が特異的な細胞構造を持つ微小環境「腫瘍形成ホットスポット」から生じるという新しい概念を証明することを目的としている。これまでに、ショウジョウバエ成虫原基を用いた研究から、同一上皮組織内でも内在的な細胞構造の違いによって、癌原性変異細胞が正常細胞による協調的統合性から逸脱することができる特定部域が存在することを発見した。腫瘍形成は必ずこの「腫瘍形成ホットスポット」において、癌原性変異細胞が上皮細胞層頂端側から抜け出して増殖を開始することで起こる。これに対し、「コールドスポット」では変異細胞は上皮の規定側に排除され細胞死を起こす。本研究では腫瘍形成ホットスポットの形態学的特徴を流体力学的視点から捉え、ショウジョウバエの分子遺伝学的手法により腫瘍形成開始の共通機構を明らかにする。本年度は以下の研究計画を実施した。 計画1. 流体力学的解析によるホットスポット検出法の開発:成虫原基の上皮細胞構造を決定する重要な要素である微小管配列をコンフォーカル顕微鏡で取得し、この画像データにParticle Image Velocimetryを応用した解析を行った。この方法により、微小管を流れとして捉えた時に検出される「よどみ点」が腫瘍形成のホットスポットと一致することを検証した。 計画2.癌原性変異細胞の上皮層からの逸脱制御に関わるシグナル経路の解析:上皮組織において、異常細胞を正常細胞が細胞競合によって排除する機構が知られている。この過程で、アクトミオシンが重要な働きをしている。そこで、アクトミオシンの機能制御に関わるRhoシグナリング構成因子であるRhoGEFの活性を上皮内のコールドスポットの部域で阻害したところ、癌原性変異細胞の上皮内での移動方向がホットスポット型の頂端方向に変化し、同時にJAK/STATシグナルが活性化すると腫瘍形成が起こることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初立てた計画1.は達成されている。計画2.はRhoGEFについての解析は完了し、腫瘍形成の鍵となる結果も得られた。その他の因子についても機能解析する予定であったが今年度は遺伝子発現の部域特異性をより多くの遺伝子について解析することに注力したため、機能解析まで至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初の計画にそって研究を推進する。 計画1.遺伝学的手法による異所的ホットスポットの誘導:コールドスポットにおいて、細胞骨格制御シグナルと細胞増殖シグナルの特定の構成因子の活性を同時に変化させることで、腫瘍形成を誘導できることは27年度にわかった。28年度は、実際にこのような操作によってホットスポット型の細胞形態をもった微小環境が形成されるか検証するとともに、データベースから選択した、ホットスポットで特異的に発現している遺伝子の機能解析することにより、変異細胞の上皮組織からの逸脱にクリティカルな変異バックグラウンドを絞り込む。 計画2.異所的ホットスポットにおける癌原性変異細胞の挙動解析:27年度に開発した流体力学モデルによって検出される「よどみ点」が計画1で誘導された異所的ホットスポットと一致する変異バックグラウンドを用いて、変異細胞の挙動と腫瘍形成の過程を詳細に解析する。 これらの実験から、腫瘍形成ホットスポットを流体力学的よどみ点の検出によって予測する方法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画2で、癌原性変異細胞の上皮層からの逸脱制御に関わるシグナル経路を明らかにするため、ホットスポットで特異的に発現する遺伝子をデータベースから選択したところ、予想以上に多くのものが発見された。そのため、これらの遺伝子についての機能解析を27年度中に行うのは困難となり、28年度に行うための経費を残すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
前述の、27年度中に行えなかった遺伝子の機能解析を行う。
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