エプスタイン・バーウィルス(EBV)関連胃がんは胃がんの10%を占めるが、我々は上記とは別の組織型に分類される未分化型胃がんの患者の腹水中においても、EBV感染Bリンパ腫細胞が存在していることを発見した。 前年度までの研究で、未分化型胃がん原発巣65例中6例(9.2%)に比して、腹水中には33例中6例(18.2%)とEBV感染B細胞(Bリンパ腫細胞)が高頻度で存在することを明らかにした。また、このBリンパ腫細胞がin vivoにおいてマウスの中皮細胞を活性化させることも明らかにした。 本年度は、中皮細胞と胃がん細胞との相互作用および臨床検体の解析を進めた。未分化型胃がん患者75症例の腹水をin vitroで培養した結果、患者自身の中皮細胞に依存している症例は26%(20例)と高頻度で存在した。しかし、その多くはマウス活性化中皮細胞をフィーダーとしても培養できず、自身の活性化中皮細胞との相互作用が増殖・生存に必要であることが示唆された。従って、腹水から樹立できた胃がん細胞株の多くは、元々中皮細胞に依存しておらず、活性化中皮細胞との共培養においても細胞の増殖・生存に影響を与えなかった。一方で、中皮細胞依存性の胃がん細胞と活性化中皮細胞とを混合移植したマウス腹膜播種モデルでは、腹膜上に両方の細胞から構成される結節を形成したことから、活性化中皮細胞から成る微小環境が腫瘍の進展に必要であることが示唆された。重要なことに、EBV感染B細胞株を樹立した患者腹水沈査をマウスの腹腔に移植したところ、リンパ節への遠隔転移を来したことから、当該細胞が遠隔転移にも寄与することが示唆された。 以上、本研究を通して転移巣に存在する当該細胞が中皮細胞の活性化等を介して胃がんの転移に寄与している可能性が高くなった。今後、同一症例からBリンパ腫、中皮、株化がん細胞の再構築モデル等による本態解明が期待される。
|