研究実績の概要 |
上咽頭がんや胃がんにおいてEBウイルスの感染が認められ、ウイルスの上皮細胞がん化への関与が強く疑われている。しかしながらこうしたがん細胞由来のEBウイルス株の解析例はほとんどない。そこで本研究では、ヒトがん細胞由来EBウイルスゲノムDNAの単離(クローン化)および機能解析を試みた。平成27年度の研究において、ゲノム編集技術を用いた新しいEBウイルスゲノム単離法を開発し、胃がん由来のEBウイルス株2株(SNU719株およびYCCEL1株、いずれも韓国にて樹立された細胞株)の全長ウイルスゲノムDNAをクローン化した。その結果、両者の間には潜伏感染蛋白質のサイズ、反復配列のコピー数などに様々な違いが認められた (Kanda T et al, J Virol, 90:4383, 2016)。系統樹解析から、単離した二種のEBウイルス株は、いずれも東アジア地域に分布するウイルス株のグループに属し、Bリンパ芽球由来株の代表として広く実験に使われているB95-8株とは系統が異なることが明らかになった。得られたがん細胞由来EBウイルス株の組換えウイルスを産生し、不死化上皮細胞に感染させたところ、がん遺伝子産物高発現で誘導されるはずの細胞死が阻止された。以上より、上皮がん発生の初期段階におけるにEBウイルスの関与が疑われた。さらにこうした解析を進める上で、日本人由来EBウイルス株の解析が必須と考え、自然樹立された日本人由来リンパ芽球様細胞株から同様の手法により全長ウイルスゲノムの単離(クローン化)を行った。今後、より多くの日本人由来自然樹立リンパ芽球様細胞株から対照となるEBウイルス株を取得した上で、胃がん由来EBウイルス株との比較を行うことで、「高発がん性EBウイルス株」の存在の有無を検証する予定である。
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