研究課題
E2が結合したエストロゲン受容体α(ERα)は、転写因子としてBRCA2を発現させる。そこで、E2作用に伴うBRCA2の機能解析を目的に行った。E2処理したMCF-7細胞のBRCA2は、E2未処理の細胞に比べて細胞質で有意に増加することを見出した。この結果は、E2依存的に発現するBRCA2が、細胞周期依存的に発現するBRCA2と異なる細胞内動態をとることを示すものである。そこで、E2依存的に増加するBRCA2の機能を調べるため、E2処理と未処理のMCF-7細胞からcell lysateを調製して、BRCA2抗体で免疫沈降後、iTRAQ法を用いてBRCA2に結合するタンパク質の同定およびその相対定量比較を行った。34種のタンパク質が、E2未処理に対してE2処理で1.5倍以上に増加した。その中にはERα活性を亢進することが知られている14-3-3βとCREB binding protein(CBP)が含まれていた。CBPは、BRCA2と結合することがすでに報告されている。我々はBRCA2のアミノ酸配列にERαの結合モチーフを見出したため、ペプチドアレイを設計してその相互作用を解析した。その結果、結合モチーフを含むペプチドとERαが結合することを示し、BRCA2がERαとも結合することを明らかにした。そこで、E2処理により増加したBRCA2がこれらのタンパク質と結合し、E2-ERαの転写活性を阻害している可能性を考え、BRCA2の発現を抑制したMCF-7細胞に対して、E2処理後、E2応答遺伝子産物(BRCA1とpS2)の発現量をイムノブロットで検出した。その結果、BRCA2発現を抑制した細胞のE2応答遺伝子産物の発現量は、controlに比べて増加した。以上のことから、BRCA2は、E2応答遺伝子産物の発現を抑制する負のフィードバック機構に関与することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度研究実施計画の主旨は、BRCA2とエストロゲン受容体αとの結合の可能性を実証し、この結果を考慮してエストロゲン添加によるBRCA2の細胞内局在、発現量等の変化とその意義を明らかにすることである。従って、研究実績の概要に示したように、研究は概ね順調に進んでいると判断した。
(1)BRCA2 の細胞内局在変化後、BRCA2 の機能が細胞に与える影響を検証する。エストロゲン作用によるBRCA2 の細胞内の局在変化が、細胞内のBRCA2 の機能に影響を与えるのかを検証する。BRCA2 の機能は、DNA修復以外に中心体の複製、細胞質分裂、染色体分配に関与することを報告してきた。そこで、エストロゲン作用後の中心体の数とポジショニングの解析、細胞質分裂異常によって生じる多核細胞の検出、染色体分配異常時に観察される微小管の動原体へのメロテリック結合の出現を免疫染色で観察する。DNA の修復能に関しては、DR-GFP が組み込まれたU2OS 細胞を用いて、相同組換え修復効率を測定する。さらに、同様の観察をBRCA2 と14-3-3 タンパク質との結合阻害細胞においても検討する。(2)エストロゲン依存的にタンパク質量が変動する因子の網羅的解析を行う。エストロゲン依存的に発現増加するタンパク質郡を検出して、どのシグナル系の因子が変動するのかを解析して、エストロゲンによる乳がん発症機構に関与するタンパク質を同定する。MCF7(エストロゲン受容体発現)、BT20(エストロゲン受容体発現なし)、HMEC(正常乳腺上皮細胞)細胞にエストロゲンを添加した3株とMCF7 細胞でエストロゲンを添加しない1株に対して、iTRAQ ラベル化を施して相対的タンパク量を比較する。
実験計画の再考、及び実験手技の効率化に努力しさらに進めることが可能であった。その結果、計画通りの実験を遂行後、消耗品費が予定額より少額に収まった。
実験手技の効率化をさらに進めるとともに、計画通りの実験を行い状況に応じて、得られた成果の検証のために使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)
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