がん細胞に特徴的な細胞内代謝の変化は、細胞膜上のトランスポーターにも反映されるはずで、このトランスポーターはがん細胞から分泌される細胞外小胞、エクソソームに含まれると予想される。したがって、エクソソームが運ぶトランスポーターと、その特異的な基質・阻害剤などを組み合わせることで、体液中のがん関連エクソソームサブクラスを標識・定量化できる可能性が高いと考え、本研究を開始した。ここでは特に薬剤耐性獲得の責任トランスポーターであるP-糖タンパク質に焦点をあて、P-糖タンパク質発現エクソソームの特異的な蛍光標識を可能とする観察方法を確立をめざした。そのため、P-糖タンパク質陽性細胞株であるHCT-1と陰性コントロール株であるHT-29からエクソソームを精製し、これらエクソソームにP-糖タンパク質が運ばれているかどうかをウェスタンブロッティングで調べたところ、予想通り、HCT-1のエクソソームのみにP-糖タンパク質の発現が確認された。次に精製したエクソソームを用い、P-糖タンパク質の基質である蛍光分子CMFDAやRhodamine123の1エクソソームへの取り込みを、P-糖タンパク質の阻害剤であるVerapamilの添加あり・なしの条件で調べた。エクソソームへの取り込みは、超遠心で沈殿する分画の蛍光強度を測定することで評価した。いろいろな条件を検討してみたが、予想される結果を観察する反応条件を見いだすにはいたらなかった。この実験の仮定として、エクソソームの集団の中の、一定割合がインサイド・アウト状態になっており、外から内側に基質を取り込む集団が存在するとしている。このようなインサイド・アウトのエクソソームが、本当に存在しているのかどうかについては、別のアプローチで現在調べているが、蛍光分子の取り込み実験については、条件の至適化に可能性が残るので、引き続き追究していきたい。
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