研究課題
本研究課題では、人工ヌクレアーゼのCRISPR/CAS9のシステムを用いてナイーヴT細胞のT細胞受容体α鎖、β鎖のゲノム配列をがん抗原特異的ゲノム配列に改変を加え、人為的に抗原特異的なT細胞を作成する。これらをがん抗原特異的CTLに分化させ、抗がん作用、自己免疫病態の改善効果の検討を行う。gp100 は、悪性黒色腫をはじめとするメラニン形成腫瘍で発現が報告されている。27年度は、human gp100ペプチドを抗原とし、C57BL/6マウスに免疫を行い、脾臓からH-2Db human gp100 tetramerを用いてhuman gp100特異的CTLを単離した。γ線照射をした樹状細胞にhuman gp100ペプチドをパルスして、単離したhuman gp100特異的CTLと共培養を行い、human gp100特異的CTLをクローン化した。単離したクローンを、B16メラノーマを移入したマウスに系静脈投与を行い、B16メラノーマに対する抗癌作用(細胞傷害活性)の強いものをスクリーニングした。クローン化した抗癌作用のあるhuman gp100特異的CTLの全ゲノムシークエンス、およびターゲットシークエンスを行い、このクローンのhuman gp100特異的T細胞受容体配列(α鎖、β鎖)を決定出来た。CRISPR/Cas9を用いてCD8T細胞のTCR遺伝子座をhuman gp100特異的配列に置換するノックインシステムの構築を行った。CD8T細胞のTCRゲノム領域に対するマルチプレックスgRNAとCas9/Csy4を組み込んだレンチウイルスベクターとhuman gp100特異的α鎖、β鎖のドナー配列を組み込んだレンチウイルスベクターを作成を行っている。
2: おおむね順調に進展している
27年度計画していたように、human gp100ペプチドを抗原とし、C57BL/6マウスに免疫を行うことによって、human gp100特異的CTLでB16メラノーマに対する抗癌作用(細胞傷害活性)の強いCTLをクローン化することができた。このhuman gp100特異的CTLの全ゲノムシークエンス、およびターゲットシークエンスを行い、このクローンのhuman gp100特異的T細胞受容体配列(α鎖、β鎖)を決定出来たので計画通り進捗をしている。TCRのα鎖、β鎖のそれぞれに対するマルチプレックスガイド(g)RNAとCas9/Csy4を組み込んだレンチウイルスベクターを作成し、固有のTCRのα鎖、β鎖を切る工程の確認を行った。しかしながら、Cas9のサイズが非常に大きいためレンチウイルスベクターによる導入効率は非常に悪いことが明らかになった。そこでレトロウイルスベクターを用いて、同様の実験を行ったが、やはり導入効率は悪く、固有のα鎖、β鎖を切る工程がうまくいかなかった。そこで、ガイドRNA、Cas9タンパクをエレクトロポレーションで導入したところ、非常に導入効率が良く、固有のTCRのα鎖、β鎖を除去することが可能となった。一方、オフターゲットの確認をしたところ、それも見られず非常に特異性高くα鎖、β鎖のゲノムエディットが可能となった。Cas9が非常に大きなタンパク質であるため、ウイルスベクターを用いた遺伝子導入は世界的に難しいと考えられており、その導入効率の低さの改善が叫ばれていた。Cas9タンパクのエレクトロポレーションによる導入技術の確立は非常に革新的であり、この成功はプロジェクトの順調な進捗を表している。
平成28年度は、引き続き、human gp100特異的α鎖、β鎖のドナー配列を組み込んだレンチウイルスベクター、レトロウイルスベクターを作成する。固有のTCRのα鎖、β鎖を切ったCD8T細胞に対して、human gp100特異的α鎖、β鎖のドナー配列を導入後、放射線照射した樹状細胞にhuman gp100ペプチドとCpG DNA(アジュバント)をパルスしてレンチウイルスベクターを導入したT細胞と共培養を行う(1週間に1回、γ線照射をした新しい樹状細胞を入れ替える)。適切にTCRのα鎖、β鎖領域に、human gp100特異的α鎖、β鎖の配列がノックイン出来たCD8T細胞はhuman gp100ペプチドを認識でき、生存シグナルが入りクローン化出来ると考えられる。細胞傷害活性の指標として、培養上清中のIFN-γが高濃度に保たれているものを選択する。クローン化に成功したCTLは、全ゲノム解析もしくはPCRによってTCRの遺伝子配列およびオフターゲット変異を確認する。最後に、得られたhuman gp100特異的クローンを、B16メラノーマを移入したマウスに系静脈投与を行い、B16メラノーマに対する抗癌作用(細胞傷害活性)があるか確認を行う。以上の実験から、CRISPR/CAS9によるゲノム編集技術を用いて、人為的に抗原特異的なCTLを作成し、移入する全く新しいがん免疫細胞療法の確立を行う。
申請者は、東京大学医科学研究所と千葉大学医学部を兼任している。27年度は、当研究課題に関して、東京大学医科学研究所で研究を行った。しかし、28年度には研究室を東京大学から一部千葉大学へ移動し、当該研究課題に関しては千葉大で遂行する予定をしている。28年度4月より当研究費は千葉大に移動する。移動によって、新しい細胞培養系の構築や実験系の構築のために消耗品が必要となることが考えられるため、移動に支障なく研究を円滑に進めるために27年度の予算をセーブし、28年度に繰り越しを行った。
細胞培養、免疫解析のための消耗品購入のための費用とする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 図書 (4件) 備考 (2件) 産業財産権 (1件)
J Biol Chem.
巻: 290 ページ: 29781-93
doi: 10.1074/jbc.M115.669481.
Life Sci.
巻: 142 ページ: 1-7.
doi: 10.1016/j.lfs.2015.10.008.
Eur J Immunol.
巻: 45 ページ: 2299-311.
doi: 10.1002/eji.201545564.
巻: 290 ページ: 9377-86.
doi: 10.1074/jbc.M114.631374.
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/mucosa/
http://www.ims.u-tokyo.ac.jp/shizenmenekiseigyo/