研究課題/領域番号 |
15K14409
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉本 芳一 慶應義塾大学, 薬学部, 教授 (10179161)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子標的治療 / がん幹細胞 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒト結腸がん細胞HCT116にSLUG遺伝子を導入して上皮間葉転換(EMT)を誘導した116/slug-25細胞が、10%以上のSP(+)細胞を含むようになったことから、この事象の責任遺伝子を同定することを目的としている。セルソーターを用いて116/slug-25細胞よりSP(+)細胞を分取して培養すると、SP(+)細胞の割合は分取1日後に96%、5日後に67%、10日後に24%であった。SP(-)細胞を同様に培養しても、SP(+)細胞は得られなかった。116/snail-5細胞ではABCB1、ABCC3、ABCG2の発現が亢進していた。116/snail-5細胞由来のSP(+)細胞では、SP(-)細胞と比較してABCB1、ABCG2の発現の亢進がみられたが、ABCC3の発現には変化はなかった。cDNAマイクロアレイを用いて各細胞株のmRNA発現を検討したところ、HCT116細胞と116/slug-25細胞では遺伝子発現に大きな違いがみられたが、116/snail-5細胞由来のSP(+)細胞とSP(-)細胞の遺伝子発現の違いは小さかった。その中で、SP(+)細胞ではヒストンアセチル基転移酵素HAT1の関連遺伝子の発現が上昇傾向にあり、ヒストンメチル基転移酵素EZH2の関連遺伝子の発現が低下傾向にあった。このことから、SP(+)細胞の形質にエピジェネティックな発現制御の関与が示唆された。またがん幹細胞に特徴的な分子として、ABCB5の研究を行った。がん幹細胞において、CD44vが細胞内グルタチオン含量を増大させることにより酸化ストレスより防御の防御機構となることが示されている。我々は、ABCB5が細胞内グルタチオン量を増大させることを明らかにした。こうした機構は、がん幹細胞の恒常性を維持するのに重要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ヒト結腸がん細胞HCT116にSLUG遺伝子を導入してEMTを誘導した116/slug-25細胞が、10%以上のSP(+)細胞を含むようになったことから、この事象の責任遺伝子を同定することを目的としている。本研究ではこのために、cDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析と、shRNAライブラリーのスクリーニングによるSP(+)細胞形質に影響を与える遺伝子の同定を行うこととしている。このうち前者については、候補遺伝子が同定されている。また後者のスクリーニングが開始されている。
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今後の研究の推進方策 |
cDNAマイクロアレイにより抽出された候補遺伝子のうち、SP(+)細胞で発現の上昇している遺伝子については、全長cDNAをSP(-)細胞に導入し、SP(+)細胞形質が獲得されるかどうか検討する。siRNA、shRNAをSP(+)細胞に導入し、SP(-)細胞への移行性の変化について検討する。全長cDNAをSP(+)細胞に導入し、SP(+)細胞の長期維持の可能性について検討する。SP(+)細胞で発現の低下している遺伝子については、siRNA、shRNAをSP(-)細胞に導入し、SP(+)細胞形質が獲得されるかどうか検討する。全長cDNAをSP(+)細胞に導入し、SP(-)細胞への移行性の変化について検討する。siRNAまたはshRNAをSP(+)細胞に導入し、SP(+)細胞の長期維持の可能性について検討する。 shRNAライブラリーの導入による、SP(+)細胞形質に影響を与える遺伝子のスクリーニングを継続する。SP(-)細胞にshRNAライブラリーを導入し、SP(+)細胞分画に移行した細胞を分取して、導入されたshRNAに対応する遺伝子を同定する。得られた遺伝子のうち、SP(+)細胞でSP(-)細胞より発現が低下している遺伝子を選択する。候補遺伝子のsiRNA、shRNAをSP(-)細胞に導入し、SP(+)細胞形質の獲得について検討する。全長cDNAをSP(+)細胞に導入し、SP(-)細胞への移行性の変化について検討する。siRNA、shRNAをSP(+)細胞に導入し、SP(+)細胞の長期維持の可能性について検討する。こうして得られた、SP(+)細胞形質に影響を与える遺伝子について、他のSP(+)細胞やがん幹細胞モデルにおける発現の検討を行う。候補遺伝子の全長cDNAの導入またはsiRNA、shRNAの導入を行い、SP(+)細胞形質、がん幹細胞形質の変動について検討する。
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