研究実績の概要 |
中枢組織への薬剤送達技術の開発は物質輸送を厳しく制限する血液脳関門(BBB)を透過する必要があり困難を極めるが、学術および医学的発展においてその具現化の波及効果は大きい。中枢神経系に指向性を示すポリオウイルス(PV)にはBBBを巧みに透過する性質が知られるが、この分子基盤を理解し応用が可能となれば、上述の課題の克服につながり、中枢組織への輸送技術の礎を築くこととなる。 申請者は、本研究課題においてラット初代培養細胞からなるBBB in vitro 再構成系モデルを用いた解析によりPVの外殻からBBB透過能を有する2種類のペプチド配列(CPP-N4, N6)の同定に成功した。特筆すべきは、当該ペプチドはそれぞれの配列(17および35アミノ酸)のみで血管内皮細胞に特異的な細胞透過性を示すだけでなく、GFPなどと融合したリコンビナント蛋白質をも効率的に輸送、透過できる性質を兼ねそろえていることである。このペプチドはマウス脳血管内皮細胞株(MBEC4、bEnd.3)、ヒト臍帯血由来血管内皮細胞(HUVEC)に効率良く細胞内移行を示す一方で、ヒト正常繊維芽細胞(NRDF)および他組織由来のおよそ50種類のがん細胞株ではそれが確認されない。つまり当該ペプチドはPVのBBB透過能を担う責任領域の可能性が高く、中枢神経系への薬物輸送担体に資する潜在性があるものと期待される。 本研究は当該ペプチドのBBB透過の分子機構の解明を進め、“向神経性ウイルスがいかにBBBを透過し、病原性を発揮するのか”という学究的疑問の解明の糸口を見出すとともに、このペプチドの特性を活かした新たな中枢神経系への薬物輸送技術創出の萌芽的な成果の作出に貢献した。
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