本研究では、使い捨て簡易型USBシークエンサーMinIONを駆使して、熱帯感染症病原性微生物の種同定とゲノム解析を行う。熱帯熱マラリア原虫、デングウィルス感染患者、細菌感染患者について、血液から簡易核酸増幅法を用いてそれぞれのゲノムを増幅、単離したのちにMinIONシークエンサーで解読し、その配列相動性から、微生物の同定および薬剤耐性遺伝子等、臨床的に重要な意義を持った遺伝子多型の検出を行った。研究室環境での試験の完了後、インドネシアマナド市において、実用試験試験を行った。必要となる情報解析パイプラインを簡略化、ノートPCでの実行を可能とすることができた。のべ50症例を用いた試験的運用を行い、得られた結果をRT-PCR法、イルミナシークエンス法あるいはサンガーシークエンス法で確認した。いずれの系においても十分な感度と精度で測定が行われていることが確認されたことから、新手法は従来の手法に比較して十分に将来の実用に性能での実用試験に成功したと考えている。ただ、いずれも想定される種ごとに設計したプライマーあるいはそれらのカクテルを用いた増幅によるものであって、ランダムな核酸増幅系を用いた系を確立することはできなかった。反応副生物の効率的な除去についてより一層の検討が必要である。 得られたシークエンスデータは、ゲノム中のSNPを検出するにも有用であった。なかでも熱帯熱マラリア原虫において、代表的な抗マラリア薬であるアルテミシニン耐性との関連が示唆されるPfK13遺伝子において、インドネシアマナド地区に多くのゲノム多型が検出された。これが同薬剤に対する耐性獲得過程を反映しているとすれば、同様の測定の継続は重要な案件である。また抗マラリア薬クロロキンについてもPfCRT遺伝子における現地での変異カタログの創出に成功した。データ収集の観点からは当初の計画は概ね達成できたと考えている。
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