ヒトゲノムの8 %は、内在性レトロウィルス(HERV:human endogenous retrovirus)とLTR レトロトランスポゾンによって占められている。数千個におよぶHERV の大部分はGag、Pol、Env 遺伝子の突然変異によりレトロウィルスとしての機能を失っている。しかし、変異により短いORF(openreading frame)となった場合でも、ヒト、チンパンジー、ゴリラなどで、その構造が高度に保存されるものは、新規の機能を獲得し遺伝子として機能している可能性がある。高度に保存されるHERV はヒトの個体発生だけでなく、ヒト以外の霊長類からの分岐・進化に関わる可能性が高いと考えられる。そこで、ヒトゲノムに存在するHERV由来の新規候補遺伝子の網羅的探索を行なった。 平成27年度は候補遺伝子の割り出しを行い、特に脳で発現しているGag由来の候補遺伝子の特徴的な20アミノ酸からなるペプチドに対してウサギで抗体を作製した。平成28年度は作製した抗体を用いて、ヒトの培養細胞HEK293でGagタンパク質の発現を調べた。また、作製した抗体を用いてヒトの大脳・小脳・視床など各部分のタンパク質のウェスタンブロッティングとの免疫沈降を行った。 その結果、HEK293細胞で候補遺伝子の1つがDNAの2重鎖切断の損傷修復に関わる遺伝子産物と共沈する可能性がでてきた。ヒトの大脳・小脳・視床などのタンパク質を用いた免疫沈降を行なった結果でもDNAの損傷修復に関わる遺伝子産物と共沈する可能性があることが示された。このGag由来のタンパク質の発現とDNA修復との相関に関して現在解析中である。
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