研究課題/領域番号 |
15K14434
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
岩崎 博史 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (60232659)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | Cryptococcus 酵母 / 銅イオン / 形質転換 / プラスミド / 分子生物学ツール |
研究実績の概要 |
日本海溝の深海5000m付近から単離されたCryptococcus liquefaciens N6株は、銅イオンに高い耐性を示すユニークな深海酵母である(阿部等 JAMSTEC J Deep Sea Res 1998)。興味深いことに、馴化培養を行うと耐性度が増し、50 mM以上の極めて高い銅イオンの存在下でも増殖可能となる (Abe et al., Biotech Lett 2001)。これまで、C. liquefaciens 酵母の分子遺伝学・分子生物学的解析はほとんどされておらず、形質転換法やプラスミド系などの基本的な解析ツールが存在しない。本研究では、C. liquefaciens酵母の分子遺伝学・分子生物学的ツールを新たに開発し、これを用いて、ユニークな特徴をもつC. liquefaciens N6株の高濃度銅イオン耐性機構の分子機構を解明することを目的としている。そのためには、まず、形質転換法の確立が必須である。そこで、ウラシル要求性を選択マーカーとするために、野生型C. liquefaciensから5-FOA耐性を指標にウラシル要求性変異を数種類分離した。これらの全ゲノムをNGSによって配列決定をおこない、原因遺伝子を特定し、そのうち1株において、ura5を同定した。現在、得られたura5変異株を宿主として、ura5+ 遺伝子断片を用いて、ウラシル非要求性を指標に様々な形質転換法を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然突然変異によるURA要求株を得られ、これを形質転換の宿主として用いることができるようになった。そこで、現在、様々な方法で形質転換を試している。主なものは、エレクトロポレーション法、リチウム酢酸法、パーティクル・ガン法などである。なかでも、エレクトロポレーション法に注力して、様々な条件を検討しているが、現在までのところ、有効な条件を設定できていない。近縁の病原性菌C. neoformansでは、エレクトロポレーション法による形質転換法が確立しているので、C. neoformans菌の条件に近いところをさらに重点的にサーベイする予定である。また、C. liquefaciens の標準株のひとつ、C. albidus (saito) Skinner var. albidusをATTCから入手し、この全ゲノムを決定した。現在、N6株との比較解析を行っているとことである。また、銅存在下と非存在下、それぞれの培養条件での遺伝子発現の違いを解析する目的で、RNA-seqを行った。これについても、現在、詳細に解析中である。また、C. albidusにおいても、同様に、ウラシル要求性を分離し、この菌を用いて形質転換の条件検討を平行して行っていく予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
形質転換法の確立に思いの外、梃摺っている。菌体内にDNA断片が導入されにくいという可能性や相同組換えそのものの頻度が低いという可能性、さらに、異所的にintegrateしたDNAはサイレンシングの効果により、遺伝子発現が抑制されるなどの原因を予想している。形質転換法を確立しないかぎり、C. liquefaciensを新たなモデル微生物とすることは困難なので、あきらめずに、至適条件を見出す努力を続けていく。系が動くようになると、今までうまくいかなかったことが、信じられないというようなことは経験上よくあることなので、ここは地道にこつこつと条件設定に邁進したい。また、形質転換が困難な理由についても、一つ一つ検討し、それがこの微生物の特徴であるのであれば、生物学的に重要な意義をもつものと予想している。また、上述のように、標準株C. albidusを宿主にした形質転換の系も平行して開発していき、C. liquefaciensと比較解析する。 一方、銅イオン耐性機構の解析そのものは、標準株C. albidusとの比較解析をすることである程度解答は得られると予想している。これまでに、ゲノム配列の決定RNA-seqを行っており、現在は、そのデータの詳細な解析中である。これらのアプローチによって、研究期間内には、C. liquefaciens N6株がなぜ高濃度の銅イオンに耐性を示すのか、その原因を明らかにできるものと予想している
|