研究課題/領域番号 |
15K14443
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
太田 邦史 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (90211789)
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研究分担者 |
岡田 泰和 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (10638597)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 発生 / エピゲノム / 遺伝子発現 / 環境 / 表現型可塑性 |
研究実績の概要 |
個体発生時における栄養環境は、エピゲノム変化を通じて成体時の代謝性疾患の発生率や次世代の形質に影響を及ぼすことが知られている。同じゲノムDNAを持つ個体が種々の表現型を示す「表現型の可塑性」にも同様の分子機構の関与が示唆されている。表現型の可塑性が強く作用する昆虫では、幼虫時の栄養環境が武器形質やカースト分化を左右することが知られている。しかしながら、表現型可塑性とエピゲノム制御を結びつける直接的な証拠はまだ得られていない。 そこで本研究では、武器甲虫であるオオツノコクヌストモドキを用いて、発生時の栄養と、武器形質の表現型可塑性を結びつけるエピゲノム分子機構を明らかにする。今年度は、オオツノコクヌストモドキの幼虫期・蛹期・成虫期の個体から全RNAを抽出し、polyA+RNAを逆転写してライブラリを作製し、次世代シークエンサーによるde novo RNA-seq解析を行った。さらに、比較トランスクリプトームデータの取得を開始した。加えて、類縁種であるコクヌストモドキのゲノム配列を利用して、発生期に頭部等で発現するエピゲノム因子群のリストアップを完了した。得られたデータからヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)、DNAメチル化酵素、ポリコーム群などの遺伝子群を中心に、RNAiを用いて武器の表現型可塑性に関わる遺伝子を解析し、HDACが表現型可塑性を正負の両方向に制御することを示唆する証拠を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度予定していた次世代シークエンサーを用いたde novo RNA-seq解析は予定通り進捗し、これまでに60以上のオオツノコクヌストモドキのエピゲノム関連遺伝子の同定に成功した。これらのうち、10遺伝子程度について、前蛹期におけるRNAiによるノックダウン実験を実施し、武器形質の表現型可塑性に関わるエピゲノム因子の絞り込みに成功した。特に、HDACとポリコーム群の関与が重要であることがわかり、これに関しては現在論文発表の準備が進んでいる(再投稿準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
H28年度はエピゲノム因子に加え、栄養応答シグナル伝達系路の遺伝子についてもノックダウン実験を行う。また前蛹期以外の時期でのHDAC等に関するノックダウン実験を行い、発生のどの段階で表現可塑性が中心的な制御を受けているかを解析する。解析には、走査型電子顕微鏡観察に加え、各ボディーパーツの定量的計測を行い、主成分分析などの多変量解析を実施する。また、異なる栄養条件で生育させた蛹などについて、比較トランスクリプトーム解析を行うためのRNA-seqなどを実施する。メチローム解析については、対象動物が極めて小型であるため、実現が困難である可能性が出てきたので、大体の手法がないか検討を行う。また、最終年度ということもあり、これまでの研究を取りまとめ、論文等での発表を積極的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンサーによる解析を次年度に集中して行うことにしたため
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次年度使用額の使用計画 |
次年度前半に10サンプルの解析を行う
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