研究実績の概要 |
植物は, 「二次的小分子RNA生成機構」によりRNAサイレンシング複合体であるRISCの標的RNAから小分子RNAを作り出す. この機構は「RISCによる標的RNAの認識と切断」「RNA依存性RNAポリメラーゼ6 (RDR6)による相補鎖合成」「DCL4による二本鎖RNAのプロセシング」の3つの反応モジュールが連動することで機能すると考えられている. これまで各モジュールを対象とした解析は進められてきたが, モジュール間の連動機構は未知である. 本研究は多因子・多段階反応である二次的小分子生成機構を試験管内で再構成し, 反応モジュール間の連動機構を生化学的, 生物物理学的に解析することで, 二次的小分子生成機構の最重要反応であるRDR6の鋳型選択機構を明らかにする. 平成27年度はショウジョウバエS2細胞発現系を用いることで高純度のリコンビナントRDR6を用意することに成功した. RDR6の活性を評価する過程で「精製RDR6はポリA鎖を3´末端にもつRNAを転写の鋳型に出来ない」という驚くべき結果を得た. この結果は, なぜポリAをもつ細胞内の内在mRNAがRDR6によって二本鎖化されず, RISCによって切断されたmRNAやウイルスなどの異常なRNAのみが二本鎖化されサイレンシングされるのか, という長年の謎を解き明かす可能性がある. さらなる解析により, RDR6は8塩基以上のポリA配列をもつRNAを転写の鋳型にできないこと, アデニン以外の連続配列を3´端にもつRNAや, 配列の内部にポリA配列を持つRNAは鋳型にできることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の最終目標は二次的小分子生成機構の最重要反応であるRDR6の鋳型選択機構を明らかとする事である. 発案当初はRDR6自身に鋳型選択性はなく, RISCが標的を切断するプロセスがRDR6に基質特異性を付与すると仮定していた. しかしながら本研究で, RDR6自身に「ポリA鎖を3´端にもつRNAを転写の鋳型に出来ない」という鋳型特異性があることを明らかにすることができた. この発見により, 3つの反応モジュール全てを試験管内で再構成するという当初の計画を変更し, RDR6自体がもつ極めて特殊な鋳型選択機構に焦点をあてた. 計画こそ変更したが, RDR6の鋳型選択機構を明らかとするというゴールには大きく近づいたため, 研究は概ね順調に進んでいると評価した.
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