昨年度の結果を踏まえ、外来遺伝子の受精卵への導入によってコアプロモーターの活性を測定する実験系を確立することが可能かどうかの検討を引き続き行った。異なる個体を使用した実験で測定結果が大きく異なることは技術的な問題ではなく、使用する個体の個体差に由来するらしいことが分かった。そのため、こうした個体差がどういった分子機構に由来するかを明らかにし、また、可能ならばその分子機構をコントロールして、当初の目的通りの実験系を確立することを目的として、解析を続けた。 動物胚では一般に受精直後は一定時間、遺伝子の転写がおこなわれない。本研究の研究材料であるホヤでは最初の転写が行われるのは8細胞期と考えられている。本研究の結果、ほかの動物の場合と同様に、ホヤでもこのような初期の転写を抑制する機構には2つの異なる調節機構が働いていることが明らかとなった。一つは、細胞分裂の回数に依存する機構で、分裂とともに転写の抑制が段階的に解除されていく。ホヤ胚ではこの機構は遺伝子発現をグローバルに抑制しており、8細胞期~16細胞期にかけてほぼ完全に解除されていた。もう一つは、受精後の時間に関連する機構で、ホヤでは転写因子のコファクターであるβカテニンの核移行を調節していた。 先述の1つ目の機構は2~4細胞期での発現を完全に抑制できるわけではないため、また、2つ目の機構はβカテニンの標的遺伝子しか調節できないため、1つ目の機構が外来遺伝子の2~4細胞期での発現に影響を与えていると考えられた。 受精直後の初期胚における転写抑制機構の解析はアフリカツメガエルやゼブラフィッシュ、ショウジョウバエなどで進められてきた。ホヤでは最も初期に発現する遺伝子の調節機構が詳細に明らかにされているという他の実験系にはない特長があり、本研究ではそれを利用して、2つの分子機構の存在とそれらの関係を明らかにすることができた。
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