研究課題/領域番号 |
15K14448
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
米原 伸 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00124503)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | エピジェネティクス / 細胞増殖 / 細胞死 |
研究実績の概要 |
染色体を構成するヒストンは、細胞周期のS期に強発現し、3’末端にpoly-Aを持たないmRNAを介して発現するカノニカルヒストンが主成分である。一方、細胞周期非特異的に転写されるpoly-A付加mRNAから翻訳されるヒストンバリアント(ここではノンカノニカルヒストンと称する)には多数のサブタイプが存在する。FLASH/casp8ap2は細胞周期S期進行と初期胚の発生に必要な分子であり、その発現抑制はカノニカルヒストンの発現減少とノンカノニカルヒストンの発現増加を伴う。FLASHの発現抑制によって、カノニカルヒストンの代わりにノンカノニカルヒストンが染色体に取り込まれるのではないかと考え、ヒストンH1に焦点を当てて解析を行った。 KB細胞株においてFLASHの発現抑制により、細胞周期の進行がS期で停滞するが、この時にカノニカルヒストンH1.4とH1.5の発現が減少し、ノンカノニカルヒストンH1tの発現が増加することを見いだした。そこで、H1.4の発現抑制とH1tの発現が細胞増殖に与える影響を解析した。H1.4の発現抑制を特異的shRNAの発現によって誘導したが、細胞増殖には影響がなかった。一方、H1tを過剰に発現させた細胞は、FLASH knockdown細胞と同様の形態を示し、細胞増殖能が低下すると共に、FLASH knockdownに対する感受性が増大していた。H1tの発現上昇は、FLASH knockdownによる細胞形態補変化や増殖停止などの効果に関わることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固形腫瘍由来細胞株において、FLASHの発現抑制を誘導すると、細胞周期S期の進行が停滞して細胞増殖が停止し、細胞形態は若干大きくなるとともに基質への接着が弱まる。この現象にカノニカルヒストンの発現減少とノンカノニカルヒストンの発現増加が関わる可能性を考え、ヒストンH1の全バリアント分子の発現パターンをFLASH発現細胞と発現抑制誘導細胞で比較した。その結果、カノニカルヒストンH1.4とH1.5の発現が減少し、ノンカノニカルヒストンH1tの発現が増加することを見いだした。さらに、外来性のH1tを発現させることによって、細胞増殖の抑制と基質への接着の減弱というFLASHの発現抑制と類似した表現系が誘導されることを示した。FLASHの発現抑制によって、カノニカルヒストンの代わりにノンカノニカルヒストンが染色体に取り込まれて、様々な表現型が誘導されるのではないかという仮説について、これを支持する結果を得たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
「FLASHの発現抑制によって、カノニカルヒストンの代わりにノンカノニカルヒストンが染色体に取り込まれて、様々な表現型が誘導される」という仮説は、「FLASHの発現抑制によって、ノンカノニカルヒストンH1tが染色体に取り込まれ、細胞周期S期進行の停止と基質への接着の減弱が誘導される」という具体性を帯びた仮説に発展した。しかし、この仮説を証明するためにはH1tの発現抑制細胞では、FLASHの発現抑制による効果が誘導されないことを示す必要がある。これまで用いてきたshRNAの系によってH1tの特異的発現抑制を試みようとしたが、H1バリアント遺伝子間でのDNA配列の相同性により特異的発現抑制は困難であった。そこで、CRISPR-Cas9の系を用いてH1t遺伝子をノックアウトした細胞を作製して解析を行う必要があると考えている。具体的には、FLASHの発現を誘導的にノックダウンできる細胞株において、H1t遺伝子をノックアウトした後に、FLASHの発現抑制を誘導し、細胞増殖の抑制が解除されるか、基質への接着の減弱をともなう形態変化も抑制されるかを解析する必要がある。また、外来性H1tの発現細胞の解析を行ったが、H1tの発現が細胞増殖の抑制を誘導するのなら、細胞株を取得する際に、増殖能を維持した細胞を選択していることになり、H1tの活性を正しく検出できていないと考えられる。そこで、外来性H1tの発現を誘導できる細胞株を作製して、解析を行う必要もあると考えられる。これらの解析によって、「FLASHの発現抑制によって、ノンカノニカルヒストンH1tが染色体に取り込まれ、細胞周期S期進行の停止と基質への接着の減弱が誘導される」ことを証明する。
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