ホルミーシス効果は、個体もしくは細胞に与えるストレスの量が大きい場合には個体に非適応的に働く場合でも、それが小さい場合には適応的に作用する場合があることを意味している。これを検証しその分子機構を明らかにするためには、ストレスを定量化する必要があるが、その系統だった試みはなされていない。本研究において、まず制限酵素EcoRIをコードする遺伝子にmitochondria targeting sequence (MTS)を付加しチアミンの添加・非添加で発現量を制御できる分裂酵母発現ベクターを作成した。これを分裂酵母に形質転換して対数増殖期にMTS-EcoRIを発現誘導させると、そのような細胞の静止期における経時的生存率(暦寿命)が対照群に対して有意に延長し、種々のストレスに対する抵抗性も増加していることが明らかになった。これはホルミーシス効果と思われるが、さらに詳細なストレス・効果関係の定量化が必要である。そのために、現在、発現誘導をより厳密・定量的に行うことができる発現ベクターを構築中である。 一方、特定の種類のストレス負荷量が強弱異なる場合において、負もしくは正の適応的結果をもたらすのであれば、それぞれ異なるストレス応答経路が機能している可能性がある。そこで、分裂酵母を変異原であるニトロソグアニジン処理によってランダムに変異させた変異体ライブラリーを作成し、それに短期間かつ強い熱ストレス(47度2時間)あるいは長期間かつ弱いストレス(37度3日間)を負荷し、短期間高ストレスには感受性を示さないが、長期間低ストレスには感受性を示す変異株を5クローン取得した。飯田哲史博士(東京大学)との共同研究によってこれらの変異株の全ゲノム配列を決定し、それぞれについて表現型をもたらす遺伝的変異を同定した。これらの遺伝子変異体は、長期間低ストレス特異的な感受性を示すことを確認した。
|