研究課題/領域番号 |
15K14452
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中島 欽一 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80302892)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 神経科学 / エピジェネティクス / DNAメチル化 |
研究実績の概要 |
個体を形成する多様な細胞種は、分化・産生の過程でそれぞれ異なるDNA メチル化状態を獲得する。DNA メチル化は転写抑制作用を有しており、各遺伝子プロモーター領域に細胞種特有のメチル化状態が形成されることで、独自の遺伝子発現パターンが形成される。DNA メチル化状態が遺伝子ごとに制御されることを考えると、DNAメチル化状態を領域特異的に制御するメカニズムが必要であると考えられるが、その分子メカニズムには未だ不明な点が多い。申請者はこれまでに、神経幹細胞のアストロサイトへの分化制御機構解明に向けた研究の中で、アストロサイト特異的遺伝子Gfap のプロモーター領域特異的にDNA 脱メチル化を誘導する転写因子を同定したが、領域特異的メチル化制御の全体像を知るためには単一因子の解析では不十分である。しかし、数多く存在するDNA 結合因子の中から領域特異性を制御する因子を同定するのは非常に困難であり、領域特異性を制御する因子を同定するためには、候補因子を網羅的に選出する方法の確立が必要であると考えた。そこで、近年開発された標的領域に結合している因子を網羅的に同定する手法(Fujita T et al,BBRC,2013)を応用し、エピジェネティクス修飾因子の領域特異性を制御する因子を探索しようと考えた。平成27年度の研究では、この解析に必要なコンストラクトの作製を行った。また、ES細胞を用いて、特定遺伝子のDNAメチル化が解除され、また元のコンディションに戻すとそのメチル化も回復される系を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
系の確立と、必要コンストラクトの作製が行えたため。
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今後の研究の推進方策 |
1.領域特異的にDNA メチル化酵素の作用を阻害する因子の探索:Groundstate の胚性幹細胞を血清含有培地で3日間培養し、Nanog、Oct4 のプロモーター領域を標的とするsgRNA をそれぞれ、dCas9 と共に導入することでenChIP 法により各遺伝子プロモーター領域に結合したタンパク質群を回収し、これらのタンパク質群を網羅的に同定する。 2.領域特異的にDNA メチル化修飾を誘導する因子の探索:神経系への分化過程でNanog、Oct4 のプロモーター領域特異的にメチル化修飾を誘導する因子の探索を行う。 3.領域特異的にDNA 脱メチル化を誘導する因子の探索:神経幹細胞は、発生が進行する、あるいは継代を重ねることでアストロサイトへの分化能を獲得した成熟神経幹細胞へと変化する。申請者らは、この性質変化にアストロサイト特異的遺伝子のDNA メチル化が重要な役割を担っており、アストロサイトへの分化能獲得の際にアストロサイト特異的遺伝子(Gfap 及びS100β)のプロモーター領域が脱メチル化されることを報告している。この現象を利用して、領域特異的にDNA 脱メチル化を誘導する因子の探索を行う。 4.各遺伝子プロモーター領域に特異的に結合する因子の選出:1-3の検討により明らかとなった各遺伝子プロモーターに結合する因子群を比較し、それぞれの分化段階で、各遺伝子プロモーター領域特異的に結合している因子群を抽出する。 5.領域特異的にDNA メチル化状態の変化を誘導する因子の同定:4の解析により選出された因子の中から、領域特異的にDNA メチル化状態の変化を誘導する因子を同定するために、領域特異的に結合していた因子の機能欠損を誘導する。これによるDNA メチル化状態の変化を調べ、機能欠損により着目した領域のDNA メチル化変化が失われる因子の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画に若干の遅れが生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
作製したコンストラクトのシークエンスの決定に使用する。
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