研究課題/領域番号 |
15K14454
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研究機関 | 基礎生物学研究所 |
研究代表者 |
定塚 勝樹 基礎生物学研究所, 多様性生物学研究室, 助教 (40291893)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 染色体 / 細胞分裂 / 染色体構造 / 遺伝学 / 分子生物学 / クロマチン / ヘテロクロマチン |
研究実績の概要 |
出芽酵母は多くの真核菌類で観られるホモタリック(自家和合性)ライフサイクルを行う。減数分裂を経て形成された1つの胞子を栄養条件下におくと増殖を始め、1回目の分裂の後に母細胞側でのみ9割の確率で接合型変換が起きる。高頻度で接合型変換により、効率的に2倍体ライフサイクルに戻る。出芽酵母はαおよびa型の接合型があり、それを決定する遺伝子は3番染色体の左右両腕付近のHML、HMRにコードされているが、これらの領域はSirtuinの働きでヘテロクロマチン化され、発現は抑えられている。細胞の接合型は、3番染色体中程にあるMATにいずれか一方の遺伝子がコピーされ、発現することで決まる。MATにどちらの遺伝子をコピーするか(donor choice)は細胞の接合型により厳密に制御され、高頻度で異なる接合型遺伝子をコピーする調節がG1期で働いている。これに、分裂期の染色体凝縮に働くコンデンシンが働くことを見出した。a細胞では9割の高頻度でHMLのα遺伝子がコピーされるが、コンデンシン変異では6割に低下し、1/2の確率に近くなることがわかった。また昨年、HMLから20kbの位置に接合型に依存してコンデンシンが結合する部位(CFR)を見出している。本年度、MATから20kbの位置に有るtDNA(コンデンシン結合部位)とCFRとの相互作用が接合型に応じて変化することを見出した。これは、HMLとMATの距離が接合型に応じて変わっていることを示している。昨年までに、CFRの働きでHMLとHMRの相互作用が接合型に応じて大きく変わることで、3番染色体の形態が変化することを見出した。これらの結果から、接合型に応じてコンデンシンの働きにより3番染色体のグローバルな形のみならず、HMLとMATの相対的距離を制御することで、細胞の接合型に応じたdonor choiceが制御されていると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
出芽酵母をモデルとして、3番染色体左右両端付近にある2つのヘテロクロマチン領域、HML、およびHMRの相互作用の解析途中で、分裂期での染色体凝縮に働くコンデンシン複合体がこれに働く事を昨年までに見出した。そこで、本年度はコンデンシンによる3番染色体の末端付近同士の相互作用による染色体形態の変化の詳細を明らかにすることに加え、それがどの様な生物機能発現に関わるのかを検討することに専念した。その結果、酵母の接合型変換の調節にコンデンシンによる染色体形態の変化が働く事を新しく発見するに至った。この過程で、接合型変換の調節を調べる際に使用する細胞株を他の研究室から譲渡を受け、それに温度感受性を示すコンデンシン変異を導入することを試みた。しかしその過程で、譲渡を受けた細胞株に未知の温度感受性変異が混在している可能性があることが判明した。そのために、細胞株の作出に時間を費やし、当初の予定から遅れが生じることにつながった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度に引き続き出芽酵母をモデルとして染色体形態の変化と、それに働くメカニズムの解明、およびそれが及ぼす生物機能発現の調節の解明に取り組んだ。その結果、コンデンシンの働きで細胞の接合型に応じて染色体形態が変わること、またそれによって接合型変換の調節に働くことが解ってきた。当初の予定の一部を変更して、今後はこの接合型変換機構の詳細と、そこで中心的役割を果たしているシス配列であるCFRへのコンデンシンの結合機構の全容の解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
出芽酵母の接合型変換を観察する細胞株の作出に時間を費やしたため、コンデンシンとCFRとの結合機構の解析に関して十分に取り組むことが出来なかった。そのために、当初予定していた計画の完了には至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は本研究で新たに同定するに至った、3番染色体の接合型に応じた形態変化で中心的役割を果たすシス配列であるCFRへのコンデンシンの結合機構の詳細を明らかにする。このために必要となる試薬類、細胞株の購入することで計画を実施する。
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