研究課題/領域番号 |
15K14458
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
後藤 祐児 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (40153770)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 脳神経疾患 / 生体分子 / 凝集 / 変性 / アミロイド線維 / 溶解度 / 過飽和 |
研究実績の概要 |
ある種の蛋白質はアミロイド線維を形成してアミロイドーシスの発症に関わるが、多くの蛋白質はアミロイドを形成しない。そこで通常アミロイドを形成しないと考えられている蛋白質にアミロイドを形成させることができれば、アミロイド形成の原理的理解につながる。このような発想に基づき、アミロイド形成の原理的解明を目指し、以下の研究を開始した。 (1)アミロイドを形成しないと見なされている蛋白質について、酵素限定分解に伴うアミロイド原性の変化を明らかにする。 (2)単離ペプチドのアミロイド形成反応を、酵素消化直後の混合物と比較して、複雑系がもたらす効果を明らかにする。
平成27年度は(1)の研究を実施した。つまり、生体内において大きな変性蛋白質はアモルファス凝集を形成するが、分解途中でアミロイド原性が高まっている可能性がある。そこで卵白アルブミンを用いて、トリプシン分解を行い、ペプチド断片のアミロイド形成反応を調べた。まず、トリプシン分解混合物を用いてさまざまな温度でアミロイド線維形成実験を行ったところ、40℃付近で極めて効率的にアミロイド線維が形成された。次に、アミロイドペプチドを、HPLCやマススペクトルによって同定し、単離・精製した。ペプチドは23アミノ酸からなり、その配列は159NVLQPSSVDSQTAMVLVNAIVFK181であった。さらにこのアミロイドペプチドを化学合成によって合成した。合成したペプチドのアミロイド形成反応を調べたところ、実際にアミロイド線維を形成することを、チオフラビン蛍光、電子顕微鏡画像によって確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した2つの項目の内、「(1)アミロイドを形成しないと見なされている蛋白質について、酵素限定分解に伴うアミロイド原性の変化を明らかにする。」について予想を上回る成果を得た。つまり、卵白アルブミンのアミロイド原性が酵素消化によって極めて高まることを明らかにした。さらにそのペプチドを回収し、配列を決定すると共に、化学合成によって合成した。合成したペプチドはアミロイド線維を形成したことから、隠れたアミロイド原性が断片化によって露出したことが明らかである。
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今後の研究の推進方策 |
予定した研究項目の内、「(2)単離ペプチドのアミロイド形成反応を、酵素消化直後の混合物と比較して、複雑系がもたらす効果を明らかにする。」について、今後は重点的に研究を進める。このために合成ペプチドを蛍光ラベルして、これによりアミロイド形成を追跡することのできるシステムを確立する。一般的なチオフラビンTの蛍光によるアミロイド形成の観測と比較することによって、複雑系におけるアミロイド形成反応を調べることができる。 またへパリンなどのグリコサミノグリカン、エピガロカテキンをはじめ各種のポリフェノール類のアミロイド抑制効果についても調べる。複雑系においては単独の蛋白質に対する抑制効果とは全く異なる可能性がある。代表者は全反射蛍光顕微鏡とアミロイド線維に特異的なチオフラビンTを用いて、一線維レベルかつリアルタイムでのアミロイド線維の伸長反応の観察を行ってきた。本研究では、複雑系におけるアミロイド原性の抑制効果を全反射蛍光顕微鏡システムによって観察し、その実態を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度には「(2)単離ペプチドのアミロイド形成反応を、酵素消化直後の混合物と比較して、複雑系がもたらす効果を明らかにする」を実施する予定であり、これに必要な物品費と旅費を使用するため。
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次年度使用額の使用計画 |
単離ペプチドと混合物を比較してアミロイド線維形成反応を研究するために必要な試薬、プラスチック器具などの消耗品を購入する。また、研究成果を発表するための旅費を必要とする。
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