ある種の蛋白質はアミロイド線維を形成してアミロイドーシスの発症に関わるが、多くの蛋白質はアミロイドを形成しない。そこで通常アミロイドを形成しないと考えられている蛋白質にアミロイドを形成させることができれば、アミロイド形成の原理的理解につながる。このような発想に基づき、アミロイド形成の原理的解明を目指し、最終年度である平成28年度は以下の研究を実施した。 (1)昨年に続き、卵白アルブミンのトリプシン分解物のアミロイド形成反応を調べた。昨年度は、23アミノ酸からなる断片ペプチドがアミロイド線維を形成することを明らかにした。合成した断片ペプチドのアミロイド線維形成反応と、トリプシン分解混合物を比較した結果、混合物においてはアミロイド線維形成が抑制されていることを明らかにした。 (2) beta2ミクログロリンのK3断片ペプチドのアミロイド線維形成に対する、他の断片ペプチドや、全長beta2ミクログロリンの効果を、NMRなどを用いて調べた。K3断片ペプチドの線維形成は、他のペプチド・蛋白質の存在下で阻害されることを明らかにした。 (3)へパリンのアミロイド形成反応に対する効果を、beta2ミクログロリン、ニワトリ卵白リゾチームなどを用いて調べた。アミロイド線維形成の機構には、ヘパリンがもたらす静電的な反発の抑制によるものと、塩析効果の2つがあることが明らかになった。 (4)一般的な蛋白質凝集の例として、インターネットなどでよく知られている「コーラに少量の牛乳を添加すると牛乳が凝集する現象」に着目した。これを蛋白質構造物性の視点から調べ、コーラに存在するポリリン酸が、牛乳を凝集させる原因物質であることを明らかにした。さらにポリリン酸は一般にアミロイド線維の形成を促進することを明らかにした。 以上の結果は、一般的な蛋白質の凝集反応とアミロイド線維形成反応を考える上でも、重要である。
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