研究課題/領域番号 |
15K14461
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
増本 博司 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 講師 (80423151)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | タンパク間相互作用 / 質量分析 / タンパク修飾 / ビオチン化修飾 |
研究実績の概要 |
本年度は物理的に接触もしくは至近距離にあるタンパク間同士を化学架橋剤で結合させ、細胞内の弱い相互作用で結ばれるタンパクネットワークの検出する技術の確立を試みた。出芽酵母細胞を架橋剤DSPで処理し、NAD+依存型デアセチラーゼ(サーテュイン)と結合するタンパクの同定を試みた。DSP処理の有無によって結合するタンパクの種類を比較したところ、DSP処理の有無に関わらず検出された主要な結合タンパクの数および量に有意な変化がなく、さらには微量かつ非特異的なタンパクの結合を起こしていた。この結果からDSPなどの化学架橋剤を用いた細胞内タンパク架橋ではタンパク間ネットワークの解明に使用できないと判断した。 この失敗の代案として大腸菌タンパクビオチン化修飾酵素BirAと標的タンパクとの融合タンパクを細胞内で発現させ、標的タンパクと接触する結合タンパクにビオチン化していくシステム: proximity-dependent biotin identification (BIO-ID)を採用した。本手法を使い糖尿病および癌の原因となる解糖系酵素である出芽酵母ヘキソキナーゼHxk2にBirAを付加したHxk2-BirA融合タンパクを酵母細胞内で発現させ、ビオチン修飾したタンパクを質量分析装置により同定した。その結果、解糖系の重要遺伝子であるピルビン酸カルボキシラーゼであるPyc1が同定された。Hxk2-Pyc1間の相互作用は従来では報告されていなかったことから、Bio-ID法のよりタンパク間相互作用の同定に有効であることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
化学修飾剤を用いたタンパク解析は文献では報告されているが、今回試行した限りでは出芽酵母を使った場合にはタンパク間相互作用を検出には至らなかった。その理由として化学架橋剤を使っても解析タンパクに結合したタンパクを質量分析法で同定できなかったためである。本方法を諦め、代用法としてBIO-ID法を採用した。 BIO-ID法によるタンパク間相互作用法では化学架橋剤を使用した場合に比べて、非特異的結合をかなり減らせるため有用であり、実際に特異的なタンパク間相互作用を検出できている。化学架橋剤の代わりにBIO-ID法を使うことで本課題を遂行することができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針:BIO-ID法によるタンパク間相互作用の検出システムをさら進化させる予定である。 BirAはタンパクの特定のアミノ酸配列を認識してビオチン化するため、接触したタンパクを無差別にビオチン化する変異を導入する。またBirAの行動範囲を拡げるために、標的タンパクとBirAとの間にアミノ酸側鎖が小さく空間的自由度が高いグリシン鎖を付加することで、タンパク複合体の様々なタンパク因子をビオチン化修飾するように改変する。また標的タンパクのアミノ基末端もしくはカルボキシル基末端にもBirA-グリシン鎖を結合できるような癒合タンパクの作製を行なう。 出芽酵母では内在性のビオチン化タンパクが他の生物種に比べて多く、少量の新規のビオチン化タンパクの検出が難しい状況にある。この困難を克服するために、大腸菌でタンパクーBirA融合タンパクを発現、精製し、内在性ビオチン化タンパクを除いた出芽酵母細胞抽出液を使って相互作用する因子を同定する予定である。本法によって少量でしか結合しないタンパクであってもはっきりと検出することができると考えている。 このように本課題はタンパク間相互作用の検出方法を化学架橋剤使用からBIO-ID法に変更し、タンパク間相互作用を検出していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は化学架橋剤を使ったタンパク間相互作用の検出の技術確立を行なったが、予想よりもタンパク同定に困難が生じることが分かり他の検出方法を試していた。その結果BIO-ID法の確立に至ったが、BIO-ID確立までに必要な試薬類は、研究室内で既に購入されていた試薬の残りなどを転用するなどしたために物品費が抑制できた。そのため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度はBIO-ID法を使い様々なタンパク間相互作用を検出するほか、出芽酵母以外の生物種でもBIO-ID法の有用性を実証するために他の研究機関および他大学との共同研究を推進する予定である。
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