細胞内のタンパクは外的環境変化に対応して他のタンパクと複合体を形成する。その複合体形成力には強弱があり、既存の生化学技術ではタンパク間複合体を検出できない事例が多々存在する。細胞内のタンパク間相互作用を検出するために、タンパク複合体因子同士を化学架橋剤で連結し、さらに複合体内の因子の存在比率を定量するためにSILAC (Stable Isotope Labeling of amino acid in cell culture)を組み合わせたSILAC-X-linking-Protein purification-Mass spectrometry (SXP-MS)の開発を試みた。 (1)出芽酵母を研究材料に、化学架橋剤であるDithiobis (succinimidyl propionate) (DSP) で細胞を処理し、標的タンパクと結合する因子群の同定を行なった。しかしながら、多くのタンパクが非特異的結合を起こすため、実用的な技術とはならなかった。 (2)相互作用するタンパクのみを同定する方法として哺乳類細胞で開発された接触したタンパクにビオチン化修飾を加えるBio-ID法を出芽酵母に導入した。その結果、いくつかのタンパク複合体を検出することができた。しかしながら出芽酵母内で無作為にビオチン化されるタンパクが多すぎるため、研究手法の実用性には乏しかった。 (3)関連技術として標的のタンパクの大量発現を行なうために、外来遺伝子を出芽酵母のTy1レトロトランスポゾンに多コピーで挿入するゲノム編集技術(CRISPR/Transposon gene integration: CRITGI)を開発した。この手法はタンパクの大量発現だけでなく、特定のアミノ酸の有無によってタンパク発現誘導を掛けることができるため、遺伝子発現誘導の手法の多様性をもたらした。
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