小腸上皮細胞は代表的な極性細胞である。その細胞膜を構成するスフィンゴ糖脂質 (GSL) はセラミド骨格のスフィンゴシン塩基のC4位と脂肪酸のC2位に1か所ずつ水酸基が付加したフィトセラミド構造と呼ばれるユニークな構造で構成されている。本研究では、フィトセラミド欠損マウスであるDihydroceramide: sphinganine C4-hydroxylase(Des2)ノックアウトマウス (Des2-KO)を用いて、フィトセラミド構造の細胞極性における役割を解明することを目指した。Des2-KOは小腸においてフィトセラミド構造を均一に欠損するが2週間前後で死亡する重症型と寿命が1年以上の軽症型の2つの大きく異なる表現型が観察された。組織病理学的解析で重症型では小腸に明らかな形態変化を認めるのに対し、軽症型ではその変化が非常に軽微であった。そこで、特定のペアからは世代を超えて重症型マウスが生まれるという観察所見から、Des2-KOマウスの表現型を左右するmodifier遺伝子の存在を想定し、その同定を試みた。手法としては、マウス家系図から常染色体劣性遺伝と推定し、軽症型のDes2-KO親マウスの交配により重症型のDes2-KOが生まれた家系のマウスゲノムをトリオでエクソーム解析した。複数の候補遺伝子が上がったが、研究期間内にmodifier遺伝子の特定には至らなかった。しかしながら、現在、重症型Des2-KOマウスの系統化に近づいており、これらのマウスを用いた解析や、軽症型マウスの小腸に各種の負荷をかける検討により、フィトセラミド構造の役割を解明を追究していく予定である。
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