研究実績の概要 |
先天性筋ジストロフィー症に深く関係している膜タンパク質複合体 POMT1-POMT2 の立体構造を解明することは、それ自体大きな学術的意義がある。そして、POMT1-POMT2 複合体の糖鎖修飾反応機構の解明は病因の理解に寄与し、その治療につながる可能性がある。しかしながら、POMT1-POMT2 は膜タンパク質の複合体であることから、今日まで活性測定条件を見出すことさえ困難であった。そのようなターゲットの発現、単離、精製、結晶化、結晶構造解析を行うことは大きなチャレンジである。また、POMT1-POMT2 のX線結晶構造解析を、硫黄原子の異常分散効果を利用する位相決定法(S-SAD 法)で行う手法の開発を目指し、これはS-SAD 法の膜タンパク質への適応という点で新規でかつ重要である。 研究はまず POMT1, POMT2 の哺乳類培養細胞での発現コンストラクトの設計を行い、それに基づいて発現用プラスミドの作成を行った。それを用いて発現実験を行ったが、両者とも発現量が非常に少なく、そのままでは結晶化スクリーニング実験を行うのに十分なタンパク質が得られない量であった。発現条件の検討を行うと共にコンストラクトの見直し等も行ったが、残念ながら発現量の改善には至らなかった。そこで、昆虫虫体で発現させたタンパク質が体内で結晶化する方法を、本研究に応用することを目指し、その検討を行った。しかしながら、こちらについてもPOMT1, POMT2についてはその発現を確認することができなかった。 一方、S-SAD法の改良についての検討を進め、高エネ機構の放射光施設のビームラインで、効率の良いデータ収集法の開発、結晶化プレートのままX線回折能をチェックする方法などの開発を進め、それらについては十分な成果が得られた。
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