研究課題/領域番号 |
15K14472
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
内海 利男 新潟大学, 自然科学系, 教授 (50143764)
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研究分担者 |
三好 智博 新潟大学, 研究推進機構, 助教 (60534550)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 免役化学 / 蛋白質 / 抗体 / 自己免疫 |
研究実績の概要 |
ヒト全身性エリテマトーデス(SLE)の患者では特定の蛋白質成分が高い抗原性を示し多くの患者がその蛋白質に対する自己抗体を産出する。しかも、これら蛋白質の抗原部位の構造は進化的に高く保存されており、通常の免疫法では困難な抗体が体内に産出されている場合が多い。本研究ではリボソーム大亜粒子に存在する自己抗原であるP蛋白質を対象とする。これまでの研究でヒトP蛋白質をマウスに投与し免疫化した場合、SLE患者の自己抗体と同様にP蛋白質のC末端の10アミノ酸部位に対する抗体が高効率で産出された(Sato, Uchiumi, et al. [2015] Clin. Exp. Immunol. 179: 236-244)。P蛋白質は構造と機能面で、真核生物間はもとより古細菌を含む広い生物間で類似することが知られている。本研究では、古細菌相同蛋白質を大腸菌を用いて大量発現させ、精製した。そして、ウサギに投与し免疫化したところ予想された通り、ヒト抗原部位に対応する古細菌相同部位に対する抗体の産出が認められた。次に、遺伝子組み換えの技法により、この古細菌蛋白質遺伝子の抗原部位配列の20アミノ酸を、S6と呼ばれる別なリボソームタンパク質のC末端部位の配列に置換した。得られた改変型遺伝子を大腸菌に導入し改変型蛋白質を大量調製した。この蛋白質をこれまで2匹のウサギに投与し免疫化した。その結果、両ウサギともS6蛋白質のアミノ酸配列に対する抗体を産出した。さらに、他の配列を導入しても同様に導入配列に特異抗体が産出されるかどうかを全く別な配列で検討した。すなわち、酵母の翻訳因子の一つであるHbs1と呼ばれる分子の内部配列の一部を古細菌P蛋白質のC末端配列と置換し試みた。その結果、新たに導入した配列に対する抗体の産出が検出され、本抗体作製法の汎用性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の主要な目的である任意のアミノ酸配列に対する抗体を誘発させる系の確立に対し、平成27年度は古細菌リボソームP蛋白質のC末端部位を2種類の他のタンパク質の一部の配列と置換した。選択した配列の一つは、動物リボソーム蛋白質の一つであるS6のC末端部位で、リン酸化される部位で露出していることが推察されている部位である。そして二つ目は酵母の翻訳因子の一種であるHbs1で、分子の中央部のループ部分の一部の配列である。両蛋白質を大腸菌で発現させ、精製後それぞれ2匹のウサギに投与し免疫化した。抗体の産出は、各血清を用いたイミュノブロット法により解析した。その結果、両導入配列に対する抗体の活性がそれぞれ2匹の血清から検出された。この結果は、P蛋白質のC末端に導入した全く異なる2種類の特定配列に対する抗体がそれぞれ産出されたことを示しており、研究は概ね成功したと言える。しかしなら、得られた抗体はこれまでイミュノブロット法により反応特異性を分析しているが、未変性蛋白質に対する反応性の検証はまだ行っていない。得られた抗体の性質の検証について今後課題として残された。
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今後の研究の推進方策 |
先ず、平成27年度に得られた研究成果より、新しい技術に関して、特許出願する(出願書作成中)。そして内容をJST主催の新技術説明会(6月に開催予定)で発表予定である。ここまで、全く別種類の2種類の蛋白質について特定アミノ酸に対する抗体産出に成功しており、特許出願には問題ないと思われるが、この方法による抗体作製の汎用性を確証するために、平成28年度はさらに他の配列をP蛋白質に導入し、新たな抗体の誘発を確認する。候補としている蛋白質は真核細胞・古細菌で広く保存された重要な翻訳因子の一つであるABCE1等を予定している。 平成27年度の研究では、得られた抗体の反応性を、標的蛋白質をSDS変性した後のイミュノブロット法による分析にとどまっているが、さらに抗体の未変性蛋白質との結合性を、①未変性ゲル電気泳動、②免役沈降法、③ショ糖密度勾配遠心、または④蛋白質の機能解析等を試み確認する。 得られた研究成果から、本抗体作製法の汎用性と実用性について考察し、2年間の研究を総括する。
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次年度使用額が生じた理由 |
作製する抗体の一つの標的としてリボソーム蛋白質S6のC末端部位としたが、この配列を古細菌P蛋白質のC末端部位と置換した融合蛋白質の発現系は既に本課題開始前に確立し、追試は容易であった。しかし、当初もう一つの標的と計画した前立腺腫瘍マーカーであるProstate-specific antigen (PSA)のC末端配列については、抗原サンプルの大腸菌発現系の構築とその検出方法に困難が生じたため、様々な検討を加えた後、標的を真核生物の翻訳因子の一種、Hbs1に変更した。結果的にウサギ2匹に対してこの蛋白質に対する抗体作製には成功したが、研究に遅れが生じ、得られた抗体の反応性に関する検証実験に至らず、次年度に持ち越しとなった。そして当該年度の研究費に残金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本手法による抗体作製法の汎用性を確証するために、さらに新たな蛋白質のアミノ酸配列に対する抗体誘発を計画している。候補としている蛋白質は真核細胞・古細菌間で広く保存された重要な翻訳因子の一つであるABCE1を考えている。この蛋白質の機能解析に利用できるように、分子の複数か所に対する抗体を作製したいと考えている。その他、平成27年度には実施できなかった、得られた抗体の未変性抗原蛋白質との結合性を、未変性ゲル電気泳動、免役沈降法、ショ糖密度勾配遠心、または蛋白質の機能解析等の生化学的実験により検証する予定である。
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