研究課題
植物の光屈性などの青色光受容体であるフォトトロピン(phot)は、光によって活性制御されるプロテインキナーゼである。このphotキナーゼの光による活性制御機構を応用して、プロテインキナーゼΑ(PKΑ)活性のin vitro光制御系を作ることを目的としている。photはN-末端側にLOVとよばれる光受容ドメインを二つもち、C-末端側はセリン/スレオニン・キナーゼ(STK)となっており、青色光によりその活性が制御される。申請者らの研究などにより、1) C-末端セリン/スレオニン・キナーゼはconstitutiveな活性をもつこと、2) LOV2がphotキナーゼの阻害ドメインとして機能し、光によりこの阻害が解消されキナーゼが活性化される、つまりLOV2が光スイッチの役割を果たすこと、3) その際に、キナーゼ活性制御に関わる主要な分子構造変化はLOV2とキナーゼドメインの間のヒンジ領域に起こり、活性化には特にLOV2のC-末端側に存在するJα-ヘリックスの光反応によるアンフォールディングが重要で、これによりLOV2コアからJα-ヘリックスが解離してキナーゼ活性阻害が解消することなどが分かっている。昨年度は上記のJα-ヘリックスの構造変化を応用したSTK活性光制御系の開発を試み、60%程度の阻害効率を示すタンパク質の作製を得ている。これ以外に新たにキナーゼ活性制御にLOV2ドメインコアのN-末端側に存在する短いA’と呼ばれるα-ヘリックスとLOV2との間のGAPが活性制御に重要な働きを示すことを見つけた(雑誌論文PLOS ONE, 2015参照)。さらにJαへリックスのC-末端側、キナーゼドメインとの間に小さい2つのα-ヘリックスをもつモジュール(LAMと命名)が存在し、これがキナーゼ活性制御に重要な役割を果たすことも見つけた(雑誌論文FEBS Lett, 2015参照)。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は「PKA活性の光制御系の作製」目指して、2種類の高効率PKΑキナーゼ活性光制御系の開発を行う予定であった。1番目はシロイヌナズナphot2のLOV2とそのJα-ヘリックスのC-末端に、PKΑの活性阻害ペプチドであるPKIを結合したタンパク質(LOV2-Jα-PKIタンパク質)を作製し、光照射にともなうJα-ヘリックスの構造変化によりPKIをPKΑと相互作用させて活性阻害を引き起こす、というものである。2番目はPKIをLOV2-Jα-ヘリックスの間に挿入して(LOV2-PKI-Jαタンパク質)、同様な光によるPKAの活性阻害を引き起こす系である。生体系への応用を考慮して、90%以上の阻害効率を示すタンパク質の作製を目指したが、この内2番目で約60%の阻害を示す系を得ていたが、1,2の系を用いて様々実験を行ったがそれ以上の改善は見られず目標の90%には届かなかった。しかし実績概要で述べた様に、新たにphotキナーゼの光制御に関する重要な2つの知見を得て論文発表したことは、今後の研究を進める上で大きな成果であると考えられる。
今後も平成27年度で目指したより高効率なキナーゼ活性の光阻害を示す系を、上記2種類のコンストラクトを用いて作製することを継続して行う。さらに平成27年度に新たにLOV2ドメインコアのN-末端側に存在する短いA’α-ヘリックスとLOV2との間のGAPが活性制御に重要な働きを示すことを見つけたので、この点を考慮して新たにして、A’α-ヘリックス-LOV2- Jα-ヘリックス-PKIのコンストラクトによる光制御機構の追求も行う。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Phys. Chem. Chem. Phys.
巻: 18 ページ: 6228-6238
10.1039/c5cp07472j
Plant Cell Physiol.
巻: 57 ページ: 152-159
10.1093/pcp/pcv180
FEBS Lett.
巻: 590 ページ: 139-147
10.1002/1873-3468.12028
PLOS ONE
巻: 10 ページ: e0124284
10.1371/journal.pone.0124284
J. Phys. Chem.
巻: 119 ページ: 2897-2907
0.1021/jp511946u
Scientific Rep.
巻: 5 ページ: 7709
10.1038/srep07709
生物物理
巻: 55 ページ: 181-186
10.2142/biophys.55.181