研究課題/領域番号 |
15K14481
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
谷口 直之 国立研究開発法人理化学研究所, システム糖鎖生物学研究グループ, グループディレクター (90002188)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 糖鎖 / レドックス / 糖転移酵素 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「糖鎖」と「レドックス」という細胞が持つ一見独立した2つのシステムが密接に制御し合う協調的システムを新たに見出し、"Glyco-Redox"制御異常を背景とする多くの疾患の全体像の解明・治療法探索につながる新しい知見を得ることである。 平成27年度は、アルツハイマー病の病態を悪化させるバイセクト糖鎖の発現が、加齢やアミロイドβの蓄積によって生じる酸化ストレスによって亢進することを明らかにした。この成果はBiochemical Journal誌に掲載されている。また、バイセクト糖鎖を合成する糖鎖遺伝子GnT-IIIは、CdやCoなどの2価金属によって誘導を受け、その制御には転写制御因子Nrf2が関わっていることを明らかにし、その一部はArchives of Biochemistry and Biophysicsに掲載された。レドックス制御の破綻により生じる代表的な疾患の一つであるCOPDのバイオマーカーとして、肺特異的糖タンパク質SP-Dに発現するフコース含有糖鎖が候補になる可能性を示すデータを得た。またこの成果はJournal of Proteomics誌に掲載された。さらに、レドックス制御において中心的な役割を果たすSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)のアイソフォームの一つ、EC-SODの機能が糖鎖によって制御されていることを示す知見を得ている。この成果は現在論文としてまとめている。また理化学研究所の田中克典博士らとの共同研究で、酸化産物やカルボニル化合物の検出システムの構築も進めている。 これらの成果により、Glyco-Redoxシステムの一端と、それに起因する疾患の発症メカニズムが明らかになりつつあり、この制御機構についての提案を上記のArchives of Biochemistry and Biophysics誌に掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、本研究課題に直接関連する成果として原著論文4報を報告するに至った。それらはCOPD、がん、アルツハイマー病といった現代医療が抱える大きな課題に関するものであり、本研究の成果によりそれらの発症メカニズムの解明や治療法の開発へとつながることが期待できる。またこれらの成果をまとめた総説論文がArchives of Biochemistry and Biophysics誌に掲載され、またGlycoconjugate Journal誌にも現在投稿している。これらの成果により、グライコレドックスシステムと、その破綻による疾患発症機構の一端が明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
酸化ストレスによるバイセクト糖鎖の発現亢進メカニズムをより詳細に明らかにする。酸化剤の投与によりバイセクト糖鎖生合成酵素GnT-IIIのプロモーター活性が上昇することをレポーターアッセイにより確認する。また各種ヒストン翻訳後修飾に対する抗体を用いたChIPアッセイなどにより、生細胞においてGnT-III遺伝子周辺のクロマチンがレドックスに依存して制御されていることを確認する。また転写活性に必要な転写調節因子の同定を試みる。 さらに、代表者らが最近確立したqPCRの系により、酸化剤投与後やレドックスのマスターレギュレーターであるNRF2の過剰発現によって変動する糖転移酵素mRNAを網羅的に解析し、レドックスにより制御されている糖鎖遺伝子を同定する。同定された糖鎖遺伝子が合成する糖鎖産物の定量解析を行う。 酸化ストレスと関連が深い、がん、COPD、アルツハイマー病などで変動する糖鎖遺伝子に対して、これら疾患における糖鎖機能を明らかにするとともに、抗酸化剤の投与による糖鎖の発現回復や、治療効果について解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の助成金は主に消耗品の購入、旅費の支出へほぼ計画していた通り使用した。研究計画は当初予想していたより大きく進展したが、一方7817円の次年度使用額が生じた。これは当初計画していた額と大きな差はなく、予定通り研究を遂行できたと考えている。未使用額分は来年度の助成金と合わせて主に物品費として使用する。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度の未使用額分は来年度の助成金に合わせて、主に物品費として使用する。 主に、酸化ストレスによるバイセクト糖鎖の発現亢進メカニズムの解明のための、分子生物学関連の試薬類、レドックス制御されている糖転移酵素の網羅的な解析のための遺伝子解析試薬類、がん、COPD、アルツハイマー病などの酸化ストレス関連疾患における糖鎖機能の解明に必要な試薬、実験動物諸費用などへの計上を計画している。また成果発表や情報収集のための学会参加や研究打ち合わせに必要な旅費への使用を計画している。
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