研究実績の概要 |
本研究の目的は、「糖鎖」と「レドックス」という細胞が持つ一見独立した2つのシステムが密接に制御合う協調的システムを新たに見出し、"Glyco-Redox"制御異常を背景とする多くの疾患の全体像の解明・治療法探索につながる新しい知見を得ることである。 平成29年度は、昨年度までの成果を発展させ、肺や血管に発現し、ROSの解毒化を行う分子であるSOD3に着目した研究を行った。SOD3分子上のN型糖鎖を改変すると、FurinによるSOD3のC末端の切断、および細胞外への分泌が変化することがわかった。特に、C末端の切断や細胞外への分泌には末端にシアルを持つ糖鎖を持つことが重要であることが明らかになった(Ota et al., Glycobiology, 2017)。また現在、SOD3の糖鎖構造と肺疾患との関連性を見出しつつある。また、糖鎖の合成材料である糖ヌクレオチドに着目し、新規の糖ヌクレオチドであるUDP-マンノースを動物細胞において初めて同定した(Nakajima et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 2017)。さらに、先天性免疫に重要な働きを持つTLR4の糖鎖に着目し、細菌由来成分によるTLR4を介した免疫応答の際、TLR4のコアフコース糖鎖がその機能に不可欠であることを見出した(Iijima et al., Glycobiology, 2017)。これらの成果は、糖鎖とレドックスの融合という細胞の制御システムの存在を支持し、糖鎖の新しい機能と疾患との関連性を示すものである。さらに、得られた成果の一部をBiochim. Biophys. Acta誌に総説論文として発表した(Kizuka et al., 2017)。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、「糖鎖」と「レドックス」が強調する新しい機構を明らかにし、関連する疾患の治療や診断に資する知見を得ることを目的としている。今年度までの主要な成果として、酸化ストレスの解毒に関わるSOD3の機能が糖鎖によって調節されることを発表した(Ota et al., FEBS Lett., 2016)(Ota et al., Glycobiology, 2017)。さらにこの知見を発展させ、肺疾患の罹患とSOD3の糖鎖変化との関係性を示すデータが得られつつある。ただ、ヒトのサンプルの扱いに時間を要したため、解析を終了し、成果としてまとめるにはもう少し時間が必要である。論文を発表するまでには、約半年の期間延長が必要であると見込んでいる。未使用額は、主に血液の解析に必要な消耗品類の購入費用、論文執筆のための英文校閲、論文掲載費用、学会発表のための旅費などに使用する予定である。
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