研究課題
細胞内シグナル伝達経路のモデル系であるcAMP発振回路の動作原理を解明するため、次の研究を実施した。発振回路を構成する必須タンパク質群の数量変化を解析するため、これらの蛍光標識を目的としたGFPノックイン株の樹立を行った。cAMP発振回路の構造と機能は時間とともに変化するため、初期状態(振動なし)から最終状態(安定発振)に至る各遷移過程における、構成タンパク質の実数を一分子計測ならびに生化学的手法で明らかにした。具体的には、cAMP受容体やcAMP合成酵素などの膜貫通分子について全反射顕微鏡システムを、細胞質内タンパク質群について斜光照明システムを用いて分子数計測を行った。また全てについて生化学的定量計測を行い、定量結果の信頼性を評価した。その結果、リミットサイクル振動時(最終段階)の細胞においては受容体(50万分子/cell)を筆頭に、正or負の制御因子(10万分子/cell)が豊富に存在する一方で、最終エフェクターであるcAMP合成酵素は最大でも2.5万分子/cellと、受容体に比べると1/20程度しか存在しないことなどを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
cAMPシグナル伝達を制御する必須5因子(受容体/正負の制御因子3種、最終エフェクター)について、バイアスされたゲノム組成のため従来は極めて困難であったGFPノックイン株を、安定かつ迅速に樹立する新規手法を開発し、その成果を論文発表した。また、機能分子数の計測結果についても論文投稿を終えているなど、順調に成果をあげている。
申請時計画に従って、分子数の人為的増減を可能にする摂動ツールを開発する。機能タンパク質の分子数をLogスケールで変化させるための摂動技術を開発する事を目的に、摂動プロモーターの利用、ならびにポリシストロニック法による複数遺伝子の連動制御を実現する。発振回路の構築過程の初期、中期、後期における発現分子数が、数十、数百、数千、数万ならびに数十万分子以上となる遺伝子を見いだし(分子数計測による)、そのプロモーター配列を同定する。この制御下で標的遺伝子を発現する摂動用ユニットを構築し、ゲノム中に異所挿入される摂動ユニットの種類とコピー数で目的とする機能タンパク質の数を調節できる系を構築する。また、ポリシストロニック法による複数遺伝子の連動制御するため2Aペプチド配列の改変を行う。高等真核細胞では、2Aペプチド配列(手足口病を引き起こすコクサッキーウイルスに由来)で連結した複数の遺伝子をポリシストロニックに翻訳させることができる。時間とともに発現が増加もしくは減少する遺伝子(同定済み)と、解析対象遺伝子を2Aペプチド配列によりゲノム内連結させることで、複数の遺伝子を連動して発現制御できる系を構築する。
順調に成果を上げている一方で、研究成果の公表がH28年度にずれ込んだため、論文掲載にかかる経費の確保が必要になった。
平成28年度の研究計画の実施に必要な消耗品の購入と、複数の研究論文の掲載費に用いる。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (2件)
BMC Biotechnology
巻: なし ページ: 16:37
10.1186/s12896-016-0267-8
Oncotarget
巻: 6(32) ページ: 33568-33586
10.18632/oncotarget.5598.