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2015 年度 実施状況報告書

In-organelle NMRによるミトコンドリア内蛋白質の動態解析

研究課題

研究課題/領域番号 15K14494
研究機関首都大学東京

研究代表者

伊藤 隆  首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (80261147)

研究分担者 美川 務  国立研究開発法人理化学研究所, 生命システム研究センター, 専任研究員 (20321820)
研究期間 (年度) 2015-04-01 – 2018-03-31
キーワードミトコンドリア / in-cell NMR / 蛋白質
研究実績の概要

本研究の目的は,生体内の蛋白質の解析に対して潜在的なポテンシャルを持つin-cell NMR法を,真核細胞のオルガネラ内にある蛋白質の解析法として発展させることである.対象となるオルガネラとしては,細胞質と特に異なる環境を保持し,その単離方法も確立されているミトコンドリアを用いる.ミトコンドリア内環境が蛋白質の立体構造や動態(フォールディング安定性や高分子複合体との相互作用など)に与える影響を解析する.
蛋白質のオルガネラにおける機能発現のメカニズムは解析すべき重要な生命現象の一つである.一方で各オルガネラ内の物理化学的環境は充分に解明されていない.したがって,本研究の成果は,オルガネラにおける蛋白質の構造・活性相関を解析するためのブレークスルーになる可能性がある.
本研究ではミトコンドリア・マトリックスに存在する蛋白質を解析候補として取り上げるが,その前段階的研究として,H27年度は,既にin-cell NMR解析で実績がある連鎖球菌protein G B1ドメイン(GB1)および高度好熱菌T.thermophilus HB8 TTHA1718にミトコンドリア移行シグナル(MTS)を付加し,in-mitochondria NMRの手法の確立を試みた.使用するin-cell NMRの系としてはsf9/baculovirusの系とHeLa細胞の系を用いた.このうちHeLa細胞の系では,MTSのついたGB1を,電気穿孔法を用いて細胞質に導入することに成功した.その後移行シグナルが切断されミトコンドリア内に輸送されていることも確認した.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

連鎖球菌protein G B1ドメイン(GB1)をミトコンドリア・マトリックスに移行させるために,PCRを用いてミトコンドリア移行配列(MTS)を付加したGB1(MTS-GB1)の大腸菌発現用ベクターを作成した.次に15N標識最小培地M9で培養した大腸菌内にMTS-GB1を大量発現させ,大腸菌を破砕後に既報のプロトコルに従って15N標識MTS-GB1を精製した.この試料を電気穿孔法によりHeLa細胞に導入し,2D 1H-15N SOFAST-HMQC測定を行った.続いて,測定に用いた細胞からミトコンドリアを単離し,同様に2D 1H-15N SOFAST-HMQC測定を行った.
HeLa細胞に導入したMTS-GB1について2D 1H-15N SOFAST-HMQC測定を行った結果,良好なスペクトルを得た.測定後,ミトコンドリアと細胞質を単離して電気泳動を行った結果,MTS-GB1は移項配列が切除された状態でミトコンドリア内に局在しており,細胞質にはほとんど存在していないことを確認した.MTS-GB1をHeLa細胞に導入したスペクトルとMTSのないGB1を導入したものを比較すると,多くのシグナルが消失・変化していた.このことからGB1はミトコンドリアマトリクス内で細胞質中とは異なる状態をとることが示唆された.
このように,H27の研究によって,ヒト培養細胞中で標的蛋白質をミトコンドリア内に移行させ,詳細な動態をin-cell NMRによって観測する手法の確立に成功したと考えられる.従って,研究はおおむね順調に進展していると言える.

今後の研究の推進方策

H27の研究によって,ヒト培養細胞中で標的蛋白質をミトコンドリア内に移行させ,詳細な動態をin-cell NMRによって観測する手法の確立に成功した.今後は,ミトコンドリア内でのGB1の挙動をさらに詳細にNMRを用いて解析し,どのような因子が動態変化に寄与しているかを考察する.HeLa細胞の系に加えてsf9の系での解析も推進するとともに,マトリックス環境をミミックしたin vitro解析も組み合わせていく.また,当初の研究計画に従って,ミトコンドリア・マトリックス局在の蛋白質からマルチステップな選考基準によって,解析に適した試料を絞り込む作業も継続して行う.これらの蛋白質にも同様の実験を試み,ミトコンドリアマトリクス内の分子クラウディング環境の普遍的な理解にも挑戦する.さらに,ミトコンドリア内蛋白質の動態解析を行うが,その際にはアミノ酸選択的15N標識法を用いて,より高い感度が期待できる1次元NMRでの解析を行い,15N緩和解析や15N-DEST測定によって,マトリックス内蛋白質の安定性や,相互作用を研究する.最後に,ミトコンドリア内蛋白質の立体構造解析を行うことで世界初のin-organelle NMRによる蛋白質の立体構造解析に挑戦する.

次年度使用額が生じた理由

当初計上していなかった人工遺伝子合成費用が生じた(その他経費).一方で物品費については,研究の進捗に従って当初計上した額より若干少ない支出になったこと,旅費については,本予算から充当する国内発表回数が計画より少なかったこと,人件費・謝金については,研究補助で行う計画であった研究を研究者自身で行ったことから,全体として3万円強の次年度使用額が生じた.

次年度使用額の使用計画

次年度使用額はH28年度の物品費と併せて使用する計画である.具体的には生化学研究試薬の購入に充てる.

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2016 2015

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 4件)

  • [雑誌論文] In-cell NMRとnonlinear sampling - there is no other way2015

    • 著者名/発表者名
      伊藤 隆
    • 雑誌名

      分光研究

      巻: 64 ページ: 413-426

    • 査読あり
  • [学会発表] NMRを用いた生細胞中の蛋白質の立体構造解析2016

    • 著者名/発表者名
      伊藤 隆
    • 学会等名
      シンポジウム「細胞環境における蛋白質の動態解析のためのNMRおよび計算科学的アプローチ」
    • 発表場所
      京都大学 吉田キャンパス(京都府京都市)
    • 年月日
      2016-03-28
    • 招待講演
  • [学会発表] In situ structural biology by NMR2015

    • 著者名/発表者名
      Yutaka Ito
    • 学会等名
      Pacifichem 2015
    • 発表場所
      Honolulu, Hawaii, USA
    • 年月日
      2015-12-15
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] In situ structural biology by NMR2015

    • 著者名/発表者名
      伊藤 隆
    • 学会等名
      BMB2015
    • 発表場所
      神戸ポートアイランド(兵庫県神戸市)
    • 年月日
      2015-12-01
    • 招待講演
  • [学会発表] 細胞内クラウディング環境における蛋白質のフォールディングとダイナミクスをNMRで観察する2015

    • 著者名/発表者名
      伊藤 隆
    • 学会等名
      第53回日本生物物理学会年会
    • 発表場所
      金沢大学 角間キャンパス(石川県金沢市)
    • 年月日
      2015-09-14
    • 招待講演

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公開日: 2017-01-06  

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