研究課題/領域番号 |
15K14496
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏明 中央大学, 理工学部, 教授 (20372427)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ライブイメージング / 培養細胞 / 上皮細胞 / 細胞小器官 / 細胞間接着 / マイクロ流体デバイス |
研究実績の概要 |
蛍光を使った細胞のライブイメージングは,現代の細胞生物学において必要不可欠の技術である.通常の培養細胞のイメージングには,ガラスボトムディッシュ等に平面的に広がった細胞を二次元的にイメージングする方法が一般的である.しかし,例えば上皮系細胞の細胞間接着や細胞層物質透過など,培養面に対して垂直に分布・運動する現象を観察するには,既存の技術では水平方向の画像に比べて時間および空間分解能の両面で劣る. 本研究では,簡単なマイクロ細胞培養デバイスを作製し,培養細胞の接着面を倒立顕微鏡の視野に対して垂直に配置することで,細胞の垂直面を高解像度でイメージングするための技術開発を行っている.平成28年度は,溝構造を持つPDMS製流路の加工条件および構造の最適化を行い,核やアクチン,ミトコンドリアなどの細胞内器官の縦断面像を共焦点顕微鏡の1スキャンで取得することに成功した.特に,流路の鋳型となるマスターの側面をマイクロメートルレベルで精密に加工することが重要であった.また,マイクロデバイスを顕微鏡に設置し,高倍率の対物レンズ(作動距離が短い高NAのレンズ)で観察するためのセットアップにも工夫が必要であった.平成28年度に基礎的な実験条件を確立したため,平成29年度は,生物学的に意義のある細胞内小器官の動態のライブイメージングを進める.具体的には,MDCK細胞の密着結合を担っているクローディンタンパク質にターゲットを絞り,その構造変化を観察する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
培養細胞の垂直断面観察のための①PDMSマイクロデバイスの製造方法,および②デバイスへの細胞播種から培養,蛍光染色,および観察までの一連の手順を確立することができた.①に関しては,デバイスの鋳型の製造方法として,精密金属NC加工(外注),複数の高精度3Dプリンタによる造形,そしてシリコンウェーハのディープエッチングを試した.このなかで,シリコンウェーハのエッチング加工において溝部分の垂直性と角の直角性の精度が優れていた.培養面が垂直からはずれると,斜面の部分が陰となり,イメージングに悪影響を与えた.②に関しては,使用するマイクロ流体構造について,細胞の播種・培養および高解像度イメージングに必要な高倍率の対物レンズとの整合性をとる設計をすることが重要であった.詳細は省くが,数々のトラブルシューティングを重ね,最終的に少量の細胞でもデバイスの溝部分に付着させ,観察時に使用するカバーガラス付近に配置する方法を完成させることができた.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に技術としてのコア部分が完成したので,平成29年度は,生物学的に意義のある細胞内小器官の動態のイメージングに挑戦する.これまで,予備的に核やミトコンドリア,アクチンなどのイメージングを行い,良好な結果を得ている.平成29年度は,申請書に記したとおり,上皮細胞に特徴的な細胞接着構造,特に密着構造(タイトジャクション)のイメージングを行う.タイトジャクションは細胞間のバリアをつかさどる,生理学的に重要な組織である.その構造は電子顕微鏡でのみ詳細な構造が観察されているが,そのナノメートルスケールの構造は,近年の超解像顕微鏡をもってしてもライブで観察することができていない.MDCK細胞に蛍光タンパク質を融合させたクローディン遺伝子をトランスフェクションし,タイとジャンクションの構造および動態のライブ観察を可能にする.必要に応じて超解像顕微鏡も併用し,技術の応用可能範囲を探索する.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に繰り越した額をそのまま3年目に繰り越して利用することにした.
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次年度使用額の使用計画 |
デバイスの基礎デザインが完成したため,分子生物学的蛍光イメージングに必要な高額試薬類に利用する.
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